イギリス人女性作家による半自伝的作品
★☆☆☆☆
イギリス出身の女性作家,ジャネット・ウィンターソンによる半自伝的中編小説。
いささか風変わりな環境(一般的な日本人の感覚から言うと)に生まれ育った女性の半生が、彼女の視点から描き出されている。
内容はなかなか興味深いが、どこか理性をかき乱すようなところがあり、読むのが少々しんどい部分もある。
同じ自伝的作品の『アンジェラの灰』(フランク・マコート著)の主人公の少年が子供なりに大人になろうとしていたのに対し、本作『オレンジだけが果物じゃない』の主人公の少女は子供であり娘であるところに留まっているような印象を受ける(それぞれ境遇が異なるため一概に比較はできないが)。
万人に受け入れられる作品とは思わないが、あくまで不出来というわけではなく、嗜好に合う読者も少なからずいるかもしれないと思う。
※原書は未読
現実とファンタジーの境界
★★★★★
ジャネット・ウィンターソンの自伝的処女作。
主人公ジャネットの母は、あるキリスト教宗派の熱狂的な信者だ。
そんな母親の英才教育を受けて育ったジャネットは、幼くして説教壇に立つまでになる。
教会と家を拠り所に成長してきた彼女の運命は、しかし、初めて恋を知ったことをきっかけに、大きく動きはじめる。
ウィンターソンの語り口は軽快で、ユーモアと知的な皮肉に満ちている。
一方で、はっとするほどの純粋さや、身を切るような繊細さがのぞくこともある。
その想像力は、どんな枠にもとらわれることなく、どこまでも羽ばたいて新しい世界を見せてくれる。
ウィンターソンの作品の大きな魅力のひとつが、ストーリーの合間にふと挿しはさまれる異界の物語や寓話だ。
現実とファンタジーが混ざりあい、折りかさなって、読む者の心に忘れがたい不思議な余韻を残す。
岸本佐知子の邦訳が、ウィンターソンの魅力を存分に引き出し、新たな命を吹きこんでいる。
灯台守の話と同様、原作者と翻訳者の幸福な出会いだと思う。
外国の小説を読む楽しみ
★★★★★
タイトルに惹かれて買ったまま、4年ぶりくらいにようやく読みました。
読み始めると止まらず、寝る前に読んだりして数日で読了しました。
楽しい!
外国の小説を読む楽しさを思い出させてくれました。
まさに「物語」を読む快楽。熱狂的な信者の世界とその生活、そこにどっぷりとつかった子ども時代なんて、想像できません。
その世界が描かれつつ、その世界から追い出されるように別の世界へと旅だっていく話です。
日本語もこなれていて、主人公のジャネットはいったいどうなるのかと気になって
次々と頁を繰り続けました。
英文でも読んでみたいと思わせる、愉快な言い回しで物語が進んでいきます。
「オレンジだけが果物じゃない」。この言い回しからして心惹かれます。
ますます好きになってしまった。
★★★★★
半自伝的な作品ということで、狂信的な母親との葛藤、同性愛者としての不安、様々な問題を乗り越えて自我に目覚めていく過程が時にコミカルに、時にシニカルに描かれてますね。子供から大人へのイニシエーション的な大事な時期を、彼女は一進一退を繰り返しながらどうにかクリアしていくんですが、途中にはさまれる数々の寓話がなかなかおもしろい効果を上げていますね。彼女の心象を巧みに取り込んだ象徴的な内容で、普通なら突然別世界が挿入されたらリズムが狂ってぎくしゃくしそうなもんですが、本書に関しては逆にプラスになっている。恐るべしウィンタ-ソン(笑)。
家族およびその周辺の人々と過ごしたあれやこれやの毎日は、狂騒ともいうべき騒がしさでしたが、乗り越えてみれば台風一過、あの混乱はなんだったんだ的な平穏さを取戻し、落ち着くところへ落ち着いたワケですが、彼女が途中爆発寸前まで抱えていた母に対する反感はいったいどこへいったんだろうと少し不思議に思いました。しかし、それが世の常なんでしょうかね。
でも、まあジャネット・ウィンタ-ソンは一目置くに値する作家です。ますます好きになっちゃった。
オレンジは甘くて苦い
★★★★☆
「さくらんぼの性は」がとても良く、あとからデビュー作を詠むことになったのだが、あまりの苦さにとても驚いた。
幻想的なのにとても鋭い数々の挿話。ミルフィーユのような本なのは変わらないが、そのクリームの苦みばしった風味ときたら、時に読むのが辛くなるほどだった。
とても、とても素敵な本。オレンジは甘いけど苦い。たとえ自分が泣いてなくても涙の味がする。ウィンターソンの自伝的小説。彼女の世界を知るためにも是非読んでもらいたい一冊。