恐れとは未来時制を与えられた過去の記憶である
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時に、破滅への恐れは遠い過去に起きてしまった破滅からフラッシュバックして、今ここへと行き来する。ひどければ精神病水準の不安となる。本書を読めば、死んだ言葉による解釈だとか、机上の技法論は一まず棚上げして、見えない触手を通じて、この基底欠損に手当てする老いた精神分析医ウィニコットの生きた息吹の命の現場を垣間見ることになる。
訳者の後書きによると、実際それは柔らかに探りながら慰め、かつ受け入れ交流する指先であったという。瞠目せざるあたわざるなり。