独学にも使える「教科書」
★★★★★
本書は、不法行為法を専門とされる神戸大学の窪田充見先生が書かれた基本書である。
その特徴を一言で言えば、「独学にも使える『教科書』」である。
既存の書籍との対比で言えば
● 京大の潮見佳男先生の『基本講義 債権各論(2) 不法行為』(新世社)よりは、
判例・学説についての説明の分量も多く、丁寧な記述が為されている。
● とは言え、同じく潮見先生の『不法行為法』(信山社)のような体系書
ではない。窪田先生の自説が全面的に展開されているわけではない。
● 要するに新世社の『基本講義』と、信山社の『不法行為法』の中間に位置する。
ということになると思われる。
したがって、本書は、特に初学者・中級者の独学用に向いているものと思われる。
裏を返せば、上級者・研究者にはそれほどの魅力は無いかもしれない。
窪田先生のご見解が知りたいのであればご論文を入手した方が良いし、
研究資料であれば潮見先生の『不法行為法』(信山社)の方が
引用文献の紹介も充実している。
尚、本書の内容面の特徴を列記すれば以下のとおり。
● 本文中に多数の参照指示(リファー)が載っている。
つまり、ある記述に関連する情報が他のページにも載っている場合、
そのページが丁寧に指摘されている。法律学は円環構造なので、
この工夫は有意義だと思う。
● 重要な説明は煩を厭わずに繰り返し為されている。
独学の際に困るのは、何が重要で何がそうではないか、ということを
見分ける作業だが、本書の場合は全体を読んでいれば、自然とそれが
できるようになっている。
● 軽妙洒脱なコラムが多数載っている。独学の合間の清涼剤(?)になるだろう。
● そのコラムの中には、不法行為法の答案の書き方という指摘もある。
窪田先生は山本敬三先生と共に優秀な成績で京大を卒業された方なので、
一読の価値はある。