「倍音」は私にとっては比較的、身近なものである。しかし、主にそれは音楽を演奏する上でのものであった。
いつも奥行き深い陰影ゆたかな音色、音程も間もここ以外にないというどんぴしゃりの尺八演奏で、聴く者の頭のてっぺんから心の底まで響き渡らす中村明一氏が、『倍音』とずばり！の本。
開けば、なんとこの本は、生活に人間性に声に呼吸に、そして心にコミュニケートするところまで多岐にわたって、その「倍音」の存在と効果、作用の豊かさを、明快な視点で解き明かしているではないか。それは今までに誰も気づかなかった、考えなかったアプローチと解明で、すばらしい。たとえば「倍音」は元気のもとであったり、人の心を繋ぎ共感のもとであったりすることなどが、詳しくわかりやすく丁寧に、さまざまな体験などを通して科学的に解かれている。
さらにひとつひとつの言葉が選び抜かれていて的確で精密で遥かで、そこには繊細な美しい世界が拡がっている。
「私たちが音を聞きながら誕生し、音を聞きながらこの世を去っていく」、という示唆には感動し、自分の周りの音宇宙空間を大切に思った。
この本を読むことによって、意識から無意識の世界に踏み込め、さらに意識の実感度がアップし、毎日がより興味深くなること、まちがいなしである。
こういう本のやわらかい遥かな力こそ、世の中を変えることができるのではないか、と思った。
どの章もどの項もどのページもわかりやすく美しく、読者を捉えて放さない。
一夜で1回目を読み通した。

なんども読み返し、読むごとに再発見を楽しみたい本である。