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能・文楽・歌舞伎 (講談社学術文庫)

価格: ¥1,313
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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過去の日本の世界観を思わせてくれる著作 ★★★★★
 能・文楽・歌舞伎というタイトルがとても直截的だが、実際読んでいけばとてもわかりやすく構成されている著作。

 といっても全編書き下ろしではなく、200ページ弱の能に関する部分と120ページ強の文楽に関する部分は別個に刊行されたらしく、歌舞伎に関する部分は20ページほどの書き下ろし、最後に能についての講演と文楽についての講演を収録している。

 能についてはその世界観を最初に示し、次に舞楽・猿楽・田楽などの前史に触れながら観阿弥・世阿弥の功績による成立と後の変化発展を辿り、その後に劇としての能の形式と内容を詳しく分析していく。その過程で、前史としての劇の数々だけではなく、和歌、「源氏物語」などのテキストとしての物語、語り物としての「平家物語」などの文学ジャンルからの影響や引用、神道や禅の世界観の継承、劇の筋書きから所作・能面・衣装・小道具にいたるまでの象徴化の技法など、能にまつわる難解さという先入見を解いてくれる記述が多く含まれている。

 文楽についても同様の順序と手法で世界観・歴史・劇としての形式と内容を明らかにしてくれるが、能に比べて脚本家や太夫・三味線奏者・人形遣いという三者の演者の存在感が強い演劇として、それぞれについても分析が進められる。

 歌舞伎については分量が少ないのが惜しいが、上の二つの論考との整合性が意識されている書き下ろしだと思う。

 こうして読み通すと、自分のまったく知らない過去の日本で豊かな演劇が次々と作り出されてきたことに正直驚く。しかもほかの分野の芸術や信仰や思想と密接に影響を与え合っていることがよくわかってきた。ただ、正直に言えばここで浮かんでくるのは一つの外国としての日本だ。英語に親しんでみても酒場で口げんかするときや下ネタを言うときに英語を使わないのと同様に、これらの劇での表象はすでに自分たちの普段の振る舞いとは異なっていて、距離感を感じざるを得ない。しかし、だからこそ能・文楽・歌舞伎を理解したいと思える。日本に生まれたから日本人なのではなくて、日本人になっていくというのが本当のことなのでは、と最近は思う。

 能・文楽・歌舞伎を今度は改めて実際に観てみたいものだ、と思わせてくれる一冊。
of all the theatres probably No makes the greatest demands on the audience ★★★★☆
実はまだ能の部分しか読んでいません。ただ素晴らしい作品です。能という日本の古典芸術の理解に外人の書いた解説書を読まなければいけないという現状には苦笑してしまいますが。もっと悲しいのは、no begins with a mask, and within the mask the presence of godで始まる英語の原文を読んだ方が、翻訳で読んだ場合より、もっと感銘を受けてしまうというこの逆説です。この見事な能の解説への導入を読んでください。きびきびした明晰な英語で、西欧演劇の共通のターミノロジーを使いながらその比較の射程を広げながら、しかも著者の情熱を伝える英文で、能への魅力へと読者を誘います。もう私のような古い日本人ですら、西欧から導入された分析の道具を借りずには、能を能として味わうことはできないほど、私たちは変質してしまったのかという疑問を投げかける作品でもあります?海外のギリシャ悲劇との比較という構図の中で提示された方がよりよく能に接近できるという発見は驚きでもあり幻滅でもあります。しかし、この作品の本質的な価値からはなれた部分で、個人の勝手な思い込みでコメントされるのは、著者にとっては心外でしょう。さて、見事な導入部に続き、その後は能の詳細な解説が展開されます。特にわかりやすいのは能と狂言の歴史です。そしてそこに留まることなく、能面、能楽師の養成、音楽、舞台装置、小道具へと解明は進められます。後半のディテールは素人の私にはついていけないほどです。もともとは外人向けに書かれた作品でしたが、日本人にとっても必携の作品となってしまったのは、作品の持つ不思議な意図しない運命です。