たとえば、宇宙の「果て」や「始まり」の疑問について。著者はまず『旧約聖書』の世界創生神話やカントの宇宙論などの「思弁の学問」に触れつつ、その疑問が時間と空間の問題に行きつくことを指摘。アインシュタインの一番の成果は、その時間と空間、つまり宇宙そのものを初めて物理学の対象として扱ったことだ、と説明する。宇宙そのものがわかれば「果て」もわかるはずだと言う。
さらに著者は「アインシュタインにも解けない問題が一つありました」と続ける。アインシュタインの相対論によって宇宙のモデルは示せたが、その「始まり」は謎のままである。そこで「無」から「有」を生む「トンネル効果」の解説をはじめている。
量子論、相対論はもちろん、統一理論、ビッグバン理論、インフレーション理論、ホーキングの理論など、諸理論の位置づけや成果が興味深い展開のなかで説き明かされている。とくに、宇宙には「子宇宙」や「孫宇宙」が無数に存在するという理論は驚嘆に値する。「観測時代」に入った宇宙論の動向も論じられるなど、宇宙論・宇宙研究の歴史と現在をつかむのに最適の入門書だ。(棚上 勉)