前半は浅草で開催された7メートル近くあった籠細工の関羽の見世物について考察。この見世物は当時のニュースとなり、50万人近くの人々が見物に訪れたという。さらにその関羽の意匠が歌舞伎や浮世絵などに反映され、社会的に共通認識化していく。そしてこの見世物はその後各地を巡回し、まさに「旅するメディア」となる過程をつぶさに見せてくれる。さらに著者は、この「旅するメディア」というキーワードから、長崎に渡来したゾウ、ラクダ、ヒョウなどの動物の見世物、幕末維新に渡米までしている軽業なども紹介している。前者の動物の見世物はご利益のある見世物として、これまた浮世絵をはじめ引き札や薬などのさまざまなグッズを生み出すようになる。
江戸末期から明治まで流行した「生き人形」の見世物。女性の肌をいかに本物のように見せるかの工夫について書くと同時に、お色気路線に走りながらも、見世物小屋の場所が浅草観音境内という場所柄ゆえの「信心と遊楽」の境について考察している。江戸時代の娯楽の一端を垣間見せながらも、今日のメディアとイベントの関係についても考えさせられる書である。(鏑木隆一郎)