「旅の文化研究所」所長さんだそうで、まあそりゃそうか、と思いました…。
完全に「旅」というものに焦点を当て、講や湯治などの費用、旅籠での献立、土産、旅の形態などを詳細に追っていきます。
また、現在の「旅」との関連などにも触れていきます。ここはあくまで深い裏づけは示されませんが興味深い洞察です。
提示される史料は講や伊勢参りについて描かれた図会から当時出版された旅のハウツー本、十返舎一九の小説など、広範に及び、
著者の興味溢れる研究が垣間見られます。
少しだけ気になったのは、絵図の史料に触れている箇所が多いのですが、肝心の絵図が載っていなかったり、
また、初めて見るような熟語などが多々ありますがルビがふられていなかったり、という配慮不足がある点です。
沢山の史料を提示し、かなり旅について細かく広く述べられていて、非常に面白いですが、第二章の「旅を広めた社会の構造」
については、政治や村の組織、日常生活など、もう少し深く掘り下げてもよかったかな、とも思いました。
講を組んだ庶民が、伊勢の御師をめざして旅をし、御師の館で供応(二の膳付き)を受けるとともに神楽の奉納までする。その費用は数十両、江戸中期では御師の数600から700家というのだから、江戸期の旅行は相当に盛んだったと思わざるを得ない。本書はその他に、善光寺や厳島、湯治の旅、みやげものの起源などにも触れる。
御師による斡旋旅行の方法が、現代の我々の旅のイメージにも強く影響していると思われるあたりが特に興味深い。