江戸時代の宿は利用者や目的別に大名の泊まる本陣、商人の宿泊用の旅籠屋、物見遊山などで利用された飯盛旅籠などに別れていたが、しだいにサービスや利用目的で形態も細分化していく。なかには慈善事業として経営された善根宿や温泉宿などもあり、これらの実態を事細かに紹介している。
また、参勤交代で隣国の大名行列が自領内を通過するときの接待の実態、経費節約のためにチップをけちる大名の話、軽くて持ち運びが便利な「針」がチップ代わりに使われた話なども興味深い。当時から、宿屋間の客引きやサービス競争、グルメツアーなども存在し、反対に忙しい宿では客あしらいが悪かったなど、時代は変わっても宿屋の実態はさほど変わらないことを指摘している点には説得力がある。
ちなみに旅行する側の事情についても語られており、初期は商用などが主だったが、後期になるにつれて寺社参詣の旅などが増えていくことがよくわかる。まさに時代を超越した旅行ガイドといえよう。(鏑木隆一郎)