「しびれる! ブラボー!」。仏像が目の前に現れた瞬間、まわりに誰がいようと、その仏像は彼女だけのものになる。「チェリー色のグロス」をつけた浄瑠璃寺の「美人さん」吉祥天、「オッケー、オッケー、ドンマイだよ……ふふっ」と笑う広隆寺の弥勒菩薩、「人生で2度、似ていると言われた」法隆寺の百済観音。ていねいに描かれた仏像のイラストも、ぽかんと口をあけていたり、絆創膏を貼られていたりとかわいくて、おかしい。彼女の目に映るカラフルで生き生きとした仏像たちを見ていると、読み手の前にも、一体一体が個性を持った存在として鮮やかに浮かび上がってくる。巻末には各寺の住所と電話番号を掲載してあるから、気になった仏像にすぐに会いに行くこともできる。
大胆に挿入された、仏像以外の美しい写真の数々も自身の手によるもの。路上販売のトマトや茄子、ケチャップで顔がかかれたオムレツ、まんまるの目をした子鹿、みどり色のバス。仏像をめぐる旅の途中で、うきうきしながらカメラを構える彼女の姿が見えるようだ。日常に何気なく存在するものたちと、歴史を背負った仏像たちを同じ地平で語り、同じように愛する。そんな自由で柔軟なものの見方に触れることができるのも、本書の持つ大きな魅力のひとつだろう。(門倉紫麻)