名曲集のアルバムにこの曲を入れるとCDの売れ行きがよくなるそうだ。そのぐらいの大人気曲だから、いっそのこと1枚全部この曲で通してみようかとレコード会社が考えるのも無理からぬところ。さいわいオーソドックスなものからポピュラー音楽への編曲まで、さまざまなスタイルによる録音が存在するので、飽きのこないラインアップとなっている。もちろんオーソドックスという中にも幅の広い表現が見いだせる。イ・ムジチ合奏団の明るく外向的な演奏があると思えば、シュトゥットガルト室内管弦楽団やミュンヘン・プロアルテ管弦楽団のように厳かで内向的なものも。アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズはひたすらソフトで、オルフェウス室内管弦楽団はサッパリ系だ。
変り種を探すのもこの手のアルバムの楽しみのひとつ。東京クラリネット・アンサンブルの演奏は、冒頭だけならまるで現代音楽のようだ。ぶつ切りになった音がそっけなく投げ出されているといった風情で、予備知識なしに聴いたら、これがあの「カノン」かと気付くまでに少し時間がかかりそうだ。スイングル・シンガーズのスキャットによるヴァージョンは、おしゃれな音が好きな人にすすめたい。ちょっとはねるように歌うチャーミングな高音部とオルガンみたいに響く低音部の対比が美しい。B級が好きな人にはポール・モーリア・グランド・オーケストラ。寄せ集めの兵隊さんの行進のようにぎくしゃくとしたメロディー、妙に頭の拍をはずしたベースのかみ合わなさが楽しめます。(松本泰樹)