著者の内藤いづみさんは、山梨県甲府市を舞台に医療活動を続ける在宅ホスピス医。本書には末期がんの患者たちが、自宅で愛する家族に囲まれ、いのちの輝きをみせて最期の時をまっとうする姿が描かれている。モルヒネの正しい処方でがんの痛みが消えれば、患者は笑顔を取り戻せると著者は書く。激痛に苦しみぬいていた45歳の女性は、街の喫茶店でショートケーキを味わえるまでに回復し、その嬉しさを著者に携帯電話で伝えた。44歳の母親は台所で娘のお弁当のおにぎりを弱る手で握り、80歳の男性は春に孫たちを喜ばせたいと、死の直前に庭にチューリップの球根を植えた。かつて日本の終末期医療のあり方に失望した著者は、夫の国であり、ホスピス発祥の地であるイギリスに渡りホスピスの立ち上げに参加した。イギリスの末期がん患者たちの笑顔が今日の活動の原動力となっている。
現代医療はめざましい進歩を遂げたが、人間的な温かさを失い営利に走りがちだ。著者が往診できる患者の数は多くて3人。患者の心身の苦しみにしっかりと向き合い、気さくに家族を支える医師の存在を知ることで、医療とはこういうものだったのだと再認識させられる。(藤原瑠美)