能楽の発展を期待して
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深い知識に基づく平易な文章と多くの写真を用いながら、能と狂言について体系的に説明した入門書と思います。本書の構成で最も工夫されているのが、”ドキュメント演能のすべて 能「大江山」開演前から終演まで”の部分。全体の約1/10のページを割いて、楽屋から本番にいたるまでの能楽師の方々の仕事ぶりを紹介しています。これで、ひとつの能がどのように作り上げられていくのかを知ることができます。特に楽屋の様子は、ふつう知ることが難しいのではないかと想像します。開演前に楽屋の奥の焙(ほう)じ室で炭火で焙じた革の調子を見る太鼓方や楽器の音色を整える笛方と小鼓方の写真などもなかなか見ることができないものと思います。
多くの写真を用いた”舞型の表現解説”の部分も工夫されています。「泣く」の型を例にしても、能と狂言の差異が分かります。能では面をかけたことを想定していると説明されています。
文章を中心とした説明は、”能・狂言の歴史”の部分です。「大成以前の猿楽」、「観阿弥・世阿弥の出現」、「世阿弥の後継者たち」、「武家式学への道」、「明治維新以降の能・狂言」に分けて、長い歴史が分かりやすく説明されています。