人間模様に心引かれる
★★★★★
剣客商売シリーズの第3作だ。
7編の短篇が収められており、どれも一話完結しているが、主な登場人物の関係が深まっていく姿にどんどん嵌ります。
特に小兵衛の息子の大治郎の成長していく姿は頼もしいし、佐々木三冬との関係が徐々に深まっていく様子は微笑ましく、次が読みたくなります。
各々小説で登場する人物達も一癖あるものばかりだが、中でも「嘘の皮」は香具師の辰蔵やその娘をたぶらかした伊織は各々いい味を出しており、内容も味わい深い作品だと思います。
季節は春、初夏。鮮やかな状況描写がまぶしいですね。
★★★★★
剣客商売3巻目、池波氏の筆もいよいよ脂がのって来た感が強いです。
季節も秋、冬だった2巻目から春に移り、なんと佐々木三冬の心にも変化が・・・・・。
正に「春」を感じさせる心象風景ですが、様々な場面で池波氏の筆にのって顕される
状況が、匂いまで感じさせんばかりに「春」「初夏」を感じさせてくれます。
流石新国劇等で舞台を作り続けてきた池波氏ならではの筆致で、読みながら何度も
感服し続けました。他の文豪方の時代小説にはない、池波氏の作品の魅力として、
食事に関しても、季節感と生活感があり、彩りが本当に鮮やかな点がありますが、
この刊でも、その魅力は遺憾なく発揮されています。
それぞれが短編で綴られていますが、あっという間にその魅力に引き込まれてしまう
ので、三百数十ページの本ですが、1日ででも読了してしまう作品です。それだけの
力と魅力のあふれる作品です。
ただ、時間の経過と登場人物の拡がりは、1巻から綿々と続けられていますので、
この作品に興味を抱かれた方は1巻から読まれることをお勧めします。本当に
あっという間に読み進めてしまう魔力を潜めている本です。全巻大人買いされても
いいかもしれませんね。
三冬と大治郎と嘘の皮
★★★★★
小柄な秋山小兵衛と岩のように大きい息子の大治郎が江戸に起こる事件を斬り伏せる!
活劇時代小説3冊目。
前2作よりも緊迫感がうすれ全体的にほんわりした雰囲気に仕上がっている。三冬が女として目覚め始め(熱のこもった溜息をついたり)、大治郎は小兵衛に似てだんだん芝居気が出てきていることが大きい。解説にも書かれていたけれど、本書は二人の成長物語にもなっていて今までとは違った趣の面白みがあった。
表題作「陽炎の男」もよかったけれど、私は「嘘の皮」が一番好きだ。
侠客の娘に手を出してしまった旗本の跡取り息子。人柄は憎めないがてんで出来損ないのこの青年のために小兵衛が方々手を回す、という話だ。この話、根っからの悪人が誰も出てこない。みな自分のルールに則って行動し、ことをややこしくしていく。その過程がなんとも人間味に溢れていて面白い。
また跡取り息子の村松伊織は現代でもいそうな世間知らずの「お坊ちゃん」で、愛嬌はあるが頭がない。その伊織が終盤でみせる根性には感心させられる。
そのころ『剣客商売』は慰めであり励ましだった
★★★★★
最後の常磐新平の解説の言葉がとてもいいです・・・・
「『陽炎の男』をはじめ、このシリーズを八年前に夢中で読んでいたこと
を私は思い出す。
不幸なことを忘れたいために読んでいた。
ちょうど八月の暑いさかりだった。
そのころ『剣客商売』は慰めであり励ましだった」
どんどん嵌る3作目
★★★★★
三冬の恋心が漠然としたもので、未だ自分自身で対象を見つけられずにいたが、三冬にかかった一騒動から大治郎にはっきりと思いを寄せることになるこの作品。一方大治郎は歳も20という小兵衛の妻おはるを「母上」と呼ぶようなユーモアも持ち合わせてきて、父に似てきた。こうしていろいろなことが変化していく前兆の第三作目。1日1話のつもりが、1日ですべて読んでしまった。