旱魃で無惨に干からびたヒマワリ畑で、遠い子孫の為に、黙々と、オリーブを植え続けるスペインの農夫の話から、江尻さんの園芸論が始まる。そして、北海道東藻琴町の芝桜群落、それに、日本で園芸種として花開いた葉牡丹や朝顔の話、等々興味深い珠玉の様な逸話を交えながら、本物の園芸とは、何であるのかを語る。
私見だが、オランダに住んでいて、チューリップで有名なキューケンホフ公園に出かけた時、最初にビックリしたのは、桜も皐も、チューリップもヒヤシンスも水仙も、みんな同時に、一緒に咲いていることであった!!。それなりに美しいけれど、この一本調子のヨーロッパと違って、微妙に変化する豊かな四季を持つ日本では、同じ種類の草花や花木でも、わずかな気候や温度の変化に呼応して、それぞれの時期を待って、姿を変える。俄然、日本の四季の豊かさに気づいて感激してしまった。この美しい日本で、本当の園芸が蔑ろにされている、これが、江尻さんの嘆きである。
以前に、男の城として書斎を持とうと云う運動が起こった事があるが、江尻さんは、男の隠れ家「温室」を持とうと提案する。温かい植物の芳香に囲まれて、月下美人漬けの焼酎を味わいながら、月と星明かりの下で、瞑想に耽ったり読書三昧ーーーきっと、人生が変わるかも知れない。
園芸を通じて、豊かな実りある生活とは一体何なのかを、江尻さんは情熱!!を込めて語りかけている。胸にジーンとくる、そんな本である。