「私は何よりも、作曲家として多くの人々の心に残る存在でありたかった」。20世紀を代表する大指揮者、作曲家、ピアニストであり、クラシック音楽の啓蒙家であったレナード・バーンスタイン。その彼が最も愛したといわれる作品が、ミュージカル『キャンディード』だ。代表作『ウエストサイド物語』発表の前年（56年）に作曲された。
   18世紀の風刺作家ヴォルテールの詩をもとに作られた、パロディ精神に満ちた自分探しの冒険ミュージカル。本作は、56年初版プロダクションのものである。楽曲の難しさや場面転換の多さから、公演は不評に終わった。しかし快活でウィットに富んだ音楽は、誰からも愛されたレニーらしさが最もよく現れているかもしれない。特に序曲は、オーケストラの人気曲として頻繁に演奏される曲の1つとなっている。
   常々バーンスタインは『キャンディード』は「靴の中の小石」であり、おおいに悩まされたと言っていた。のちに何度も改訂が行われ、最も姿を変えたバーンスタイン作品となっている。89年、ロンドン交響楽団や、ジェリー・ハドレー、ジューン・アンダーソン、クリスタ・ルードヴィッヒほか豪華出演者とレコーディングした『Bernstein Conducts Candide』もある。