1曲目のイントロで「チュッ・チュッ・チュッ・チュ・ルー・ルー」という甘えたような歌声がきこえてきた時点で、もうあなたは小野リサの世界へ連れて行かれてしまっているだろう。軽やかなリズムとふわっとしたウィスパリング・ボイス。その流れに身をまかせていると、体からよけいな力がすべて抜けていくような気分になる…。

   しかし、もしも、次の曲も次の曲もみな同じような調子だったらリラックス感は退屈さに変わり、うきうきした気分はだんだん衰えていくかもしれない。だが、心配はご無用。そこはさすがに百戦錬磨の小野リサ。1曲1曲、楽器編成を少しずつ変え、サウンドにヴァリエーションをもたせている。

   たとえば、2曲目は本人の歌とギターにハーモニカの名人トゥーツ・シールマンスが加わった2人による演奏だが、3曲目ではふつうのギターとテナー・ギター（小型で4弦の高音ギター）の伴奏で繊細さを出し、4曲目ではピアノを入れて華やかさを増すといったぐあい。曲もルイス・ボンファやヴィニシウス・ジ・モラエスの作品に自身のオリジナルが加わり、変化に富んでいる。（松本泰樹）