リュート奏者のつのだたかしが率いる、「音の錬金術師」タブラトゥーラ。13世紀から使われてきた西洋古楽器を用いるユニークなバンドだ。そのレパートリーは、中世ルネサンス時代のヨーロッパの舞曲や旋律の美しいトラディショナルソングに始まり、メンバーの手によるオリジナルまで広がっている。84年の結成以来、各地のホールや能楽堂、教会や寺、美術館や映画館などを舞台に活躍。ときは路上で演奏することもあったという。
   このアルバムは、それまでに発表した4枚からメンバーが厳選したベスト盤である。サズ奏者の石森愛彦作の<5>は、ライヴでは必ず演奏する軽快な曲で、タブラトゥーラの魅力が凝縮されている。イギリスの古いフォークソング<6>では、ソプラノ歌手の実力派、波多野睦美の透明感あるヴォーカルが美しい。地中海を泳ぐ大きな海亀をイメージしたという、つのだたかし作の<10>では、ジャズピアニストの山下洋輔が即興でダルシマーをたたいている。まさに「楽しい」の一言に尽きる1枚だ。（新井由己）