それ以外の曲で小松は、手品師のように見事な手際でタンゴの豊かなヴァリエーションを次々に披露していく。バンドネオン・ソロで演奏される「ターン・アウト・ザ・スターズ」はジャズ・ピアニストのビル・エヴァンスが書いた曲で、いかにもエヴァンスらしい印象派風の和音やカウンター・メロディーが新鮮に響く。ピアソラの「バンドネオン・コンチェルト」は本来、弦楽セクションを中心に30人以上を要する大編成だが、ここでは9人からなるタンゴ・バンドのための音楽として演奏している。
ピアソラ作品ではもう1曲、いまやタンゴを代表する有名曲となった「リベルタンゴ」が入っている。この曲における小松のトリックは、ギター奏者2人を従えたトリオというめずらしい編成による編曲を用いたことだ。秘密めいたイントロがなんともにくい。
曲目解説は小松自身。ライヴでの巧妙なトークの雰囲気がかすかに伝わってきて楽しい。(松本泰樹)