裁判沙汰ともなった本書の全体の骨組みとなっているのは、歪曲なしの事実だ。それでも、『POSH & BECKS』は、ミレニアムのゴールデンカップルに対するひとりの男の解釈にすぎない。著者はデヴィッド・ベッカムに対してはいくぶん好意があるとみえ、彼を妻の言いなりになって耐えてきた男として描いているが、ヴィクトリアのこととなるといつもの調子が復活し、毒舌をふるっている。
よくも悪くもこの作家は、語る素材を編集しながら人物を潤色してしまう手さばきに、すばらしい能力を発揮する。彼のペンにかかれば、ベッカムとヴィクトリアは頭がよく支配的で、金に困り、ナルシストで事業家、ということになる。宣伝広告やマーケティングを得意とするマスコミのプロに取り囲まれてよいイメージを保ってきた(あくまでスパイスガールズのメンバーとしてだが)ヴィクトリアは、権力に貪欲なことで批判を買ってきた。モートンは(推測だが)ここに目をつけて、うまく関係者に近づいたのだろう。彼は彼女の性格を証言する人々を多数登場させている。しかし、本書で強力な力を持つのは、人々が実際に話した内容ではなく、アンチ・ポッシュを裏づける証言の選び方だ。
アンドリュー・モートンという作家は、エンターテイメント産業で起きていることによほどのショックを受けているようだ。それほどならば、業界全体の暴露本を書いてはいかがだろうか。それはそうと、マドンナ・ルイーズ・チコーネは用心した方がよさそうだ。情報筋によれば、草稿はすでに進行中である。(Helen Lamont, Amazon.co.uk)