ロシアの素朴で豊かな食文化から見える世界
★★★★★
ロシア文学と食事との関係にまつわるエッセイという、そんなところに読者がいるのかと心配になってしまうテーマなのだが(笑)、少なくともロシア好きの私にはとても楽しめる一冊だった。
取り上げられるのは、ボルシチ、ピロシキ、キャビアといった有名どころから、シチーやカーシャ、クワスなど、ロシアにいたことがある人間にはちょっと懐かしい品々まで。
それぞれの料理に対してロシア人がどんな印象を抱いているのか、それが文学作品の各シーンと絡めて語られる。
比率的に言えば、文学よりも料理に重きが置かれているので、ロシア食文化についての入門書として読むこともできるだろう。
それにしても、ロシア文学に限らず、文学上で食事のシーンが印象に残っていることは、思いのほか少ない気がする。
だが、本書で取り上げられる例、たとえば「トルストイが牡蠣にブルジョアのイメージを持たせる」「チェーホフがブリヌィでロシア人と外国人を対比させる」といったような、細部にいろいろな含みを持たせるということは、まさに作家の面目躍如。
そこに焦点を当てるという一事だけでも、文学の新しい見方を思い知らされた気がする。
ナボコフの『ロシア文学講義』の面白さに通じる、といったらちょっと言い過ぎ?