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The Mark of the Angel

価格: ¥1,105
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Vintage
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  物語は1957年のパリから始まる。フルート奏者ラファエルは、家政婦として雇ったドイツ人娘サフィーにたちまち一目惚れしてしまう。彼女は何事にも無関心無感動な娘だったが、ラファエルは彼女と結婚する。息子エミールが誕生した後も、サフィーの振る舞いに変化はなかった。ある日、楽器修理職人アンドラーシュと出会った瞬間に、彼女は激しい恋に落ちる。密会を重ねるふたり。そうとは知らず、ラファエルは芸術家として成功する。やがて、ふたりの関係は偶然ラファエルの知るところとなり、ひとつの痛ましい悲劇が彼らを襲う。
  ラファエルは、フランス人のブルジョワ芸術家。サフィーの母親はロシア兵に陵辱され自殺に追いやられた。父親はユダヤ人女性に人体実験を行ったナチのシンパだった。ユダヤ系ハンガリー人のアンドラーシュは、アルジェリア独立運動の活動家である。
  ストーリーは典型的な三角関係。しかし読み手には、単なる三角関係以上の「物語」をこの小説のなかに見つけるだろう。それは、登場人物たちが運命的に抱えている、民族や国家の「歴史」という大きな物語なのである。そのなかにあっては、恋愛は常に第一義ではない。彼らは「大きな物語」から逃れ、自由気ままに恋愛することはできないのである。
  もし、この悲劇に多少の救いを見つけるとしたら、それは、この物語の語り手の存在だろう。なぜならその存在こそは、天使であろうから。(文月 達)