これは随筆ではないか、と思ったが、解説によれば「私小説」であるらしい。
調べながら書いたのではなく、すべてが明らかになってから書き始めてあり、後に、事実を明らかするときのための伏線も張ってある。
ミステリのようであり、読んでいるうちに引き込まれてしまった。しかし、謎解きではなく、母が生まれたあたりを歩き回り、出会った人に!話を聞くことですべてが明らかになる。
それほどまでして隠さなくてはならないことか、とは思うが、当人にとっては切実な問題だったのだろう。
一カ所、読んでいて、「あっ」と思ったところがある。
工場を廻って壊れたグラインダーを集める男が登場する。
この男は、小関智弘『大森界隈職人往来』(朝日新聞社)に登場する男ではないだろうか。小関智弘は、いったい何のために集めているのか分からず、同僚と首を捻っているが、この本に、その使い道が書いてある。
意外なところで意外なものとつながっているものだ。