中国の民族問題が欠落しているのが不満。
★★★★☆
この一冊には下記の5つの事件について、松本清張の視点で解説が加えられている。
・三・一五共産党検挙
・「満洲某重大事件」
・佐分利公使の怪死
・潤一郎と春夫
・天理研究会事件
前作「昭和史発掘1」の続きだが、前作の「陸軍機密費問題」につながっているのがわかる。ひとつの出来事からの連関性を一つのストーリーに書き連ねるところに、「うまいなあ」と感心する。
「潤一郎と春夫」において、飽きを感じるが、後のシリーズで関連付けたいがために書いたのかもしれない。前作の「芥川龍之介の死」もそうだったが、文人の女遊びが派手だったことがわかる。「文人には嫁にやるな」という言葉が昔はあったそうだが、文学の肥料とはいえ女性関係が頻繁であれば、格言は確かと思った。
この清張の「昭和史発掘」シリーズを読もうと思ったきっかけは、「天理研究会事件」を読むためだった。「天理教」から分かれた現在の「ほんみち」教団が受けた弾圧事件と京都の大本教が受けた弾圧事件とを比較検討したかったからだ。「不敬罪」という罪名で反政府予備軍を崩壊させていたことに驚きを隠せない。オウム真理教のように教団内部で別の内閣を作っていたことを踏まえれば、戦前の内務省が事前に内偵を進め、崩壊に持ち込もうとしたのもわからないでもない。
本書の「満洲某重大事件」は張作霖爆殺事件のことだが、中国の軍閥の暗闘の陰に民族問題が隠れていることも述べて欲しかった。満洲族が建てた清国(中国)において漢民族は三世紀弱にわたって虐げられてきた歴史がある。その民族対立も考えて読んでいくと、中国大陸各地での軍閥抗争がみえてくるのだが、残念ながら松本清張といえどもそこまでは踏み込んではいないようだ。
このシリーズのどこかで、中国の民族問題を書き残しているのかもしれない。そのためにも、最後まで読み終えなければならない。