世界的に影響力のある中東を知るのに読みやすい好著!
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ニュースで石油危機やテロが報道されたら、必ずと言ってよいほど中東の国々が取りざたされることが多い。どうしてテロが起きるのか、中東の隣国同士がなぜ戦争するのか…等々、歴史的な経緯から理解しなければ、中東問題はわかりにくい。しかし、本書は、中東について誰にでもわかりやすく書かれた本で、しかも読みやすく、また読み終わった後では「なるほど、そういうことだったのか」とわからせてくれる良書であると思う。
中東問題概観に好適
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TVでの的確な意見でおなじみの著者の好著。
確かに「中東」と一口に括るのは難しいので、著者はひどく謙遜をしているが改めて参考になる事項が多々ある。
例えば、ドバイの狂気のような土地開発ブームは9.11事件の後のオイルダラーの流れの変化が原因など。
冷戦時代の力関係の利用から、イスラム原理主義の台頭などの説明も参考になる。
「冷戦のゴミ」問題は果たして解決できるのか重い問題である。
「民主化が進むとイスラーム主義が強まる」のはなぜか?などはニュースの裏側を理解するためにも有益。
日本に適用すれば「政権交代が実現すると、なぜ・・・・・」に置き換えられる。
イスラム教下での女性の苦悩の具体例としてはアヤーン・ヒルシ・アリ「もう、服従しない」、シリン・エバディ「私は逃げない」などがある。
いっぽう、部族長に仁義を切ると、見ず知らずの旅人にも実に親切にする例をローリー・スチュワート「戦禍のアフガニスタンを犬を連れて歩く」などで読むと非常に理解の難しい世界であることが判る。
ボストンでのパーティで「日本と中国はどう違うの?」「スエーデンとノルウエーの違い程度よ」という会話を耳にしたことがあるが、この世界の理解はまことに難しい。
イランでの日イ大型石油化学計画が革命で暗礁に乗り上げた際に、「ホメイニなんてすぐ暗殺されて一件落着さ」と冷笑していた傲慢な日本側プロジェクト担当者や、「高速道路も作ってやったのに、どうして反米なのだ」といぶかっていた米国学生など、我々はいかに無知で無神経であることを痛感させられる書物である。
何故「中東」とくくるのか。「極東」とくくられている日韓から「中東」を見る
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英国ダーラム大学の中東イスラーム研究センターで学んだ酒井啓子さんの中東論、イスラム論、アラブ論である。
中東の評論家は何人かいらっしゃるが、僕は研究者としてはこの人の意見が一番腑に落ちる。
酒井さんは、何故「中東」とくくるのか、と問題提起する。中東は欧米が決めた概念だ。
だから日韓はくくられるとしたら「極東」である。
酒井さんは「中東」の問題をイスラムというメガネを通して見ると誤りに陥るという。
中東の問題の多くは、イスラムであってもなくても、どの国にでもある原因で起こっているという。
例えば貧困、サウジアラビアを始めとする産油国は、王族を頂点に最下層の外国人労働者まで
甚だしい格差がある。しかし暴動等は起こらない。その理由は、国が豊かな石油資源で儲けたカネを労働者にばらまいているからだ。
こういう国家を「レンティア国家」と言い、このように不労所得で成り立つ経済を「レンティア経済」と呼ぶそうだ。
「レンティア経済」では民主化が遅れる傾向にある。バラマキにはダマされない民主国家を日本人は作れるのだろうか。
コンパクトなページ数で、基本的な中東をすべて概説している。
イスラムとは
パレスチナとは
アラブとは
首長国とは
サウジアラビアとは
ところ問題、ひとつ。「近東」とはどこでしょう。
インドや、パキスタンが「近東」でも「中東」でも「極東」でもないのは何故でしょう。
答は本書で。