読後感は良くないが、面白く、読ませる。
★★★☆☆
読後感は良くないものの、面白く読ませる作品だと思いました。
村上春樹訳ということで、孤独感と疎外感がキーワードととられかねない商品になっていますが、読後感は、元植民地で今は経済的に豊かになり、社会の中に文化的相克を抱えるシンガポールの英文小説を読んだ時に似ていました。
グローバリゼーション後の現代の目で読むと、異国で感じる疎外感について書かれる必要があったことが理解できます。
しかしながら、そろそろいい加減、異国で感じる疎外感の先に何があるのかを示してくれる小説があってもいいのになと思いました。
よくも悪くも20世紀末の作品というべきか。
醜悪なる人間像、9編
★★★★☆
村上さんが原書の15編を9編に枝切りした本書は、部分的には著者の実体験から描かれたそうですが、以下の負の印象・心象に満ちていました。家族の崩壊、人間関係の虚飾、人の支配欲、枯れる(枯れさせる)愛、歪んだ性愛、邪な虚栄心、生と性の堕落、性と心の崩壊、学生妊娠の不幸
最後編「緑したたる島」は、希望を持ち同棲した学生が恋が冷めた後に訪れた妊娠で落ちぶれ追い詰められていく物語ですが、かつて、塾の元男子生徒に頼られるがままに援助した記憶が蘇り、この負の物語と無関係でいられない虚しさが心を過ぎりました。
人間嫌い、人生の皮肉、疎外感。村上氏が好きなのも頷ける。
★★★☆☆
ポール・セローは、アメリカでは旅行記の作家としてよく知られる。若くして平和活動に従事し、アフリカで生活。70年代に鉄道でヨーロッパからアジアを旅し、旅行記を書いた。セローの書いた『鉄道大バザール』は、沢木耕太郎の『深夜特急』のような英語の旅行記の古典となっている。
本書に収められた9編の短編は、いずれも『異国にいる人々』についての話。『ワールズ・エンド』は、アメリカの家を引き払ってロンドンに移住した男の話。幸せな家庭の夢が異国の地で実現したと思っていたら、人間疎外になりそうなどんでん返し。
『コルシカ島の冒険』は、愛は冷めたとはいえまさか自分に三行半をつきつけることはないだろうと思っていた女房にフランス旅行中にふられたフランス文学教授の話。ヤケクソになってコルシカのレストランの女を誘惑するが、またまた人間不信になりそうなどんでん返し。
主人公は、異国の地で、現実と自分との距離感が上手くつかめない。現実感のない浮遊感の中で、誤解し、信頼し、裏切られ、しっぺ返しを受ける。取り残されたのは、何ともやり場のない疎外された自分自身の姿である。
人間嫌い、人生の皮肉、疎外感とくれば、村上春樹がこの本を翻訳した理由もうなずける。でも、読後感に爽やかさはない。どんでん返しも、『やられた!』という類の痛快さはなく、心に人間疎外の澱が残りそうだ。
つつかなくても良いことをつつくのも人間
★★★★☆
知らなくても良いことを、わざわざ知ろうとしなくても、結果的に分かってしまうことがある。そんな時には希望よりも絶望がそばに寄り添ってしまう。
そんなこともあるのだと言うことを教えてくれる作品だ。
読み終わっても幸せな気持ちになれるわけではない。でも、妙に納得させられてしまう作品なのだと思う。
世界の果て
★★★★★
村上春樹訳のレイモンド・カーヴァーを全部読んだ方にはこの短編集はオススメです。というのも、両者かなり似た世界観と読後の後味。
グイと引き寄せてポイと突き放されるような孤独感を感じる物語の数々です。