なんてワクワクする話なんだろう。あのアインシュタインの相対性理論が誤っているかもしれないなんて。これは決してトンデモ本の類ではない。本書を読み進むうちに、大発見に立ち会っているような興奮がふつふつと湧きあがってきた。
アインシュタインの相対性理論は「真空中の光速は一定」という前提によって発見されたものだ。光速不変は有名なマイケルソン・モーリーの実験で確かめられており、やがて物理学では疑いようのない常識になった。しかし、突き詰めると相対性理論に限界があるのも事実で、その打開策として著者が行き着いたのがアインシュタインへの異議申し立て、すなわち「光速変動理論(VSL)」である。著者はイギリスのMITといわれるロンドン大学インペリアルカレッジの教授。本書は2部構成になっており、第1部では相対性理論と、未解決の宇宙論的問題への答えとして最有力視されるインフレーション理論を紹介する。VSLに至る経緯と今後の展望が語られるのは第2部だ。
学問上の詳細は本書をお読みいただくとして、驚くべきは著者の文才である。ロジックが確かなのはもちろん、解説が非常にわかりやすく、たとえ話もうまい。また、科学者の人物描写も生き生きとしていて、一般人にはなじみのない物理学研究の世界がとても興味深く身近なものとして描かれている。物理学者なのにどこでこんな才能を身につけたのかと経歴を眺めれば、父親はポルトガルの古典学者で、ポルトガル・クラシックの第一人者に作曲を学んだことがあるという。著者は文理両道の天才のようだ。
「科学的取り調べの真っ最中」と著者自らが言うように、VSLが正しいかどうかはまだわからない。しかし、だからこそ大胆な仮説を立て、検証する科学の醍醐味をリアルタイムで共有できるのだ。そして何より型破りな著者のチャレンジ精神が痛快だ。手強い最先端の物理学をここまでわかりやすく、かつ面白く紹介した本としては出色の出来。科学に興味のある人なら誰でも、ぜひ手に取ることをおすすめしたい。(齋藤聡海)
あこがれの物理学の世界
★★★★★
アインシュタインの相対性理論は部分的に真実だが説明に無理がある部分がある、と物理学の支柱となる理論にいどんだポルトガルの物理学者の著書です。
著者が私と同じくらいの年齢であること、私が個人的に好きなポルトガルの人であること、など他人事とは思えない部分あり、またあの天才科学者アインシュタインの理論を超える理論を展開しようとする姿に最近すっかり忘れていた物理学に対する思いを強烈に思い出させる一冊でした。
本書は決してペテンではない。真の科学への探究心の表れである。
★★★★★
アインシュタインの相対性理論は、現代科学の根本原理である。その基礎は言う
までもなく光速度不変の原理によって支えられている。真空中の光の速度は宇宙の
最高速度であり、あらゆる観測者にとってその速度は変わることはない。しかし、
何故この原理は正しいと言えるのか。それはとりもなおさず、あらゆる観測及び実
験データこれを是としているからである。いかに懐疑派の人間が異を唱えたところ
で、相対論は覆せないというのが科学知識を持つものの「常識」であった。
私自身、相対論は間違いのない理論だと信じていた。しかし、常識を疑うことが
新しい理論の発展に?がるのではなかったか。相対論にしても量子論との整合性は取
れておらず、その適用範囲は限定された理論である。そこで本書の著者が提唱した
のがVSL理論である。この理論はエネルギー保存則を破り、光速度が変化するという
ものだ。到底信じがたい理論に聞こえるが、著者の理路整然とした説明を読むと、
決してペテンでないことが分かる。相対論にしても100年前の理論であり、現代
の科学技術の進歩による観測技術の向上によって、光速度の変化を実証するデータ
が得られないとは言えないのだ。
ただし著者自身は、こう述べている。
「自分の理論が否定されたところで恥ずかしいことは何もない。なぜなら、それが
科学というものだからだ」
歴史を書くのはまだ速い
★★★☆☆
若い科学者のエキサイティングな日々みたいな^^; 真剣に語られても分からないと思うので、それはそれでいいのだけれど、演出が過ぎるぞって感じだな~。「光速変動理論(VSL)」が駄目でも、文章書いて一流になれそうなので、今後に大いに期待。
次作、本格的VSL理論解説書に期待
★★★☆☆
前半の相対性理論・インフレーション宇宙論の解説部分は、
申し分なく楽しめます。
一転、その期待のまま後半に突入すると、裏切られてしまいます。
研究機関や物理学界への批判が主になってしまい、
肝心のVSL理論が脇役となってしまうのです。
そもそも未完の理論なのですから、十分な理解は得られないにしても、
結局VSLとはどういう理論なのか呑み込めないまま、終わってしまいました。
ということで、次作、本格的VSL理論解説書に期待です。
物理学者の格闘
★★★★☆
理論物理学者たちの苦労がすごく伝わってくる。それは著者や訳者の文章力に負うところが大きいと思うが、我々が接する機会のない(理論)物理学者達が自分の考えた理論を世に送り出すことがいかに大変かということだとも思う。理論物理学者として今までの常識(アインシュタインの理論)に挑み、新しい枠組みを提供していこうと格闘する姿は、学者に限らず大切な姿勢だと思うし、大いに共感できる。理論的な話もなるべく分かりやすく話そうとしてくれているし、全体を通して楽しめる本だと思う。ただ、帯にある宣伝文句「アインシュタインは絶対にただしいのか?」というような煽りはあまり好きではないので4つ星です。著者はアインシュタインの理論の正しさを認め、敬意を表していることは読み取れるし、その上で、それを乗り越えていこう、究極の状態でも状態を予測できる理論を作り上げようとしていることから、本書の文脈と違和感を感じたので。私はVSL理論の成否はともかく、アインシュタインがニュートンの理論を越えて重力理論を作り上げた態度と同様であることに、この著者に学者としての魅力を感じました。