読後、夜空の月を見上げ、「あそこに人が立ったんだ・・・」と、感動せずにはいられない1冊。
著者アンドルー・チェイキンは、幼い頃から天文と宇宙探検に憧れ、大学で地質学を学びNASAの火星探査プロジェクトにも参加、国立宇宙博物館の研究員を経て科学ジャーナリストになったという、アポロ計画の歴史を書くのにうってつけの人物。8年の歳月をかけて生存する全アポロ宇宙飛行士を始めとする関係者多数にインタビュー、NASAの内部資料はもちろん当時の報道資料まで調べ上げて書いたというこの本は、まさにアポロ・ミッションの全てがわかる決定版と言っても過言ではない。
アポロ計画終了後の宇宙飛行士についても触れられている部分は立花隆の「宇宙からの帰還」とかぶるところもあるが、立花隆の冷ややかな眼差し(特にバズ・オルドリンに対しては悪意すら感じる記述がある)に比して、自国の英雄に対する憧憬、アポロ計画という人類最大の冒険に携わった人々への敬意が感じられ、爽やかな読後感を残す好著である。
月に向かう飛行士たちはもちろん、地上スタッフや家族など、月着陸計画に関わるたくさんの人たちのストーリーは、あらためて計画の巨大さを感じさせられます。また、飛行士をはじめ、当時の米国の最高の頭脳を集め、巨額の予算を投じて実現した夢の月着陸が、戦争や経済などの条件で、中途半端に終わってしまったのは残念なことです。
最近アポロ=フェイク説も喧伝されていますが、これだけ多くの人が関わり、多くの失敗や犠牲も重ねた記録も残るプロジェクトが、全て虚構だったという話は、逆にあまりにも無理があるのではないでしょうか。