ケンカをしながらも(フレイアのデート相手に、ジャックが彼女になりすましてメールを送りつけるシーンは傑作)、お互いをよき理解者として認め合う2人。しかし一方で、若くてはすっぱなキャンディスに心ひかれるジャック。そして、役者志望の美青年ブレットに一目惚れするフレイア。そこに親友のキャットや元恋人のマイケル、意地の悪い義妹のタッシュといった個性的なキャラクターたちが絡み、物語はニューヨークにとどまらず、イギリスへも舞台を移しながら思わぬ方向へ進んでいく。
本書には、ニューヨークの街の風景がシーンごとに効果的に織り込まれている。ブロードウェイに五番街、セントラル・パーク。そして、フレイアたちがダブルデートを楽しむ、かつて庶民の大娯楽地といわれたコニー・アイランド。フレイアいわく「がらくた置き場」であるこの場所で、若いキャンディスとブレットを残して、アメリカ最古のジェットコースターにジャックとフレイアだけが乗りこむ場面は印象的だ。そこには長い都市生活に少しだけ疲れた人々の悲喜劇が凝縮されている。この物語のもう1人の主人公は、ニューヨークという街そのものでもあるのだ。(中島正敏)