こうした表現の質のいくぶんかは、もしかしたら彼女がヴァイオリンからの転向者であることと関係しているかもしれない。細かいヴィブラートのかけ方、すばやいボウイングといった技術面では、明らかにヴァイオリン奏法との類似が見てとれるし、音楽の組み立て方全体に、西洋音楽を学んだ人らしい感覚がにじみ出ている。そこに、ヴァイオリンとはひと味もふた味も違った二胡の音色が加わることにより、まったく新しい音楽が生まれた。
「亡き王女のためのパヴァーヌ」の洗練と退廃。ボサノヴァで演奏される「何日君再来」の小粋さ。「アナ・マリア」のかぐわしい香気。クラシック音楽であろうと、ポピュラー音楽であろうと、こんなに優雅で気品にあふれた演奏を聴くことはきわめてまれだ。ジャズを弾かせてもリズムがいいし、なにより音色に漂う神秘感が魅力的だ。(松本泰樹)