アイルランド民謡や抒情的なオペラ・アリアのメロディーなどからなるラインナップも、心をなごませる選曲だ。奥村のヴァイオリンは、清楚な美しい音が特徴。輝きに満ちているわけでも艶(つや)があるというわけでもないが、パステル画か水彩画のような上品な味わいがある。表現においては自己抑制的なほうだろう。細部への心遣いを常に感じさせながら演奏を進め、クライマックスの場面では、登りつめるより八合目ぐらいのところでとどまることを好む。
常に声高になることがない。聴き手をあっと驚かせるような新奇な手に出ることはしないし、テクニックを見せつけるでもない。それでいて、言いたいことは言っている感じがするのが奥村の音だ。(松本泰樹)