「儲かるハンバーガー・ショップをどこに出店すればいい?」。自分が住む街の地図を前に、こんな問いかけをされた中学生たちは、最初は面食らうが、やがて生き生きとグループ討議を始める。著者が提唱するこの「よのなか科」の授業では、ロールプレイングやシミュレーションの手法を取り入れ、正しい答えを出すよりも、いかに説得力のあるプレゼンテーションができるかが問われる。(この授業の詳細は、『世界でいちばん受けたい授業―足立十一中『よのなか』科』、『世界でいちばん受けたい授業〈2〉』などに詳しい)
「今、学校が抱えている問題点は何か」「新学習指導要領が公立・私立の中学校にどんな影響を与えるのか」「社会人と教師が組めば、どれほど授業は面白くなるか」「私たちはどんな日本人を育てたいのか」「教育の何を変え、何を変えてはならないのか」。「よのなか科」の授業の検証も踏まえながら、教育の現場や制度に精通する公立・私立の教育者、大学教授、ジャーナリスト、国会議員と著者が討論する。
この本では、ジャーナリスト櫻井よしこの成長物語が、著者がモデルとしたい21世紀型日本人像として象徴的に語られる。父の破産で無一文になっても学問を続けたいと思ったとき、仕事で大きな壁にぶつかったとき、櫻井を後押ししたのは幼いころから繰り返し母に言われた「あなたは何があっても絶対、大丈夫よ」という言葉だったという。
今の子どもたちは、「大丈夫!」と自己の存在を保障されることはあるのだろうか。そういった自信を植え付けることこそ、子どもの周囲にいるわれわれ大人の役割ではないのだろうか。それが確固とした己を持ちながら公共心を大切にする、新しい日本人のモデルを育てることになるのである。
過去50年にわたる日本の成長期の膿(うみ)とゆがみが、すべて中学生の問題に象徴的に噴出していると著者は考えている。教育改革を掘り下げると、おのずと日本という国のあり方まで議論は及んでくる。公立中学校の改造を突破口として、日本をよみがえらせたい。そんな著者らの真摯(しんし)な願いと熱気が、行間からあふれるように伝わってくる。(篠田なぎさ)