日本に勝算の無い戦争を始めさせた直接の原因の一つ、ABCD包囲網を「日本を『挑発して』あからさまな戦争行動を『先に』起こさせるための計画」の一環として提示したこの文書は、「ルーズベルトのお気に入り」海軍情報部極東部長マッカラムによって書かれた物である。チャーチルの要請を受けてヨーロッパ戦線に参戦したいが、「戦争はしない」とした選挙公約の手前、日本に第一撃を打たせて国民を説得する必要がある、とルーズベルトが考えていたことを傍証する政府・軍関係者の証言はいくらもある。その点「何をいまさら」なのは本当だが、半藤氏が『この文書が対日参戦への許しがたいシナリオとは到底思えない。』というのは的外れだ。なぜなら、この文書が証明するものは、そこにはっきりと書かれているとおり、「日本を『挑発して』戦争行為を起こさせる」意図とそれを実行に移す意思が米国にあった、ということである。すなわち、真珠湾奇襲によって確かに日本は戦争を「始めた」が、それは「挑発されない戦争行動」、即ち東京裁判が断定したような、国際法上に言うところの「侵略戦争」ではなかった、ということに他ならない。
スティネット本は2万以上に及ぶ、反論不能なほどに出所の明確な政府内資料とインタビューによって構成されている。(日本語版はどうか知らないが、百ページ以上の詳細なリストが巻末にある。)半藤氏がうそぶくように「確証の無いこと」などではないのだ。日本に有利な新情報が出る度に『陰謀説』『リビジョニスト』のレッテルを貼って鼻で笑って無視するような態度もいい加減にしたらどうかと思う。