彼らの演奏した曲は、マーダー・バラード、ゴスペル、ラヴ・ソング、アパラチア地方のフォーク・チューンなどさまざまで、その多くはその後何十年にもわたってミュージシャンたちにカヴァーされている。1920年代後半から30年代前半に活躍した仲間のミュージシャンたちと違って、カーター・ファミリーは単に“ヒルビリー”ミュージックをやっていたわけではなかった。彼らの音楽はまぎれもないカントリー・ミュージックで、時代を感じさせない演奏スタイルは現在のリスナーにも通用するものだ。
JSPから出たお買い得価格のCD5枚組コレクションは、現時点で入手できるカーター・ファミリーの音楽集のうち、もっとも完全で見逃せないもので、彼らがRCAビクターのために吹き込んだ録音をリマスタリングして収めている(もっと後になってデッカとアメリカン・レコード・カンパニーに録音された、独創性のとぼしいセッションは含まれていない)。カーター・ファミリーから届けられた音楽をCD5枚分も聴くなんて、下手をすると感性に過重負荷がかかりかねないが――初期にあたる1927年の『Bristol sessions』(ジョニー・キャッシュが「カントリー・ミュージック史上もっとも重要な出来事」と賛辞を送った演奏)から沈滞期の録音までが網羅された。今なおセイラ・カーターの声には心うずかせるものがあり、魅力は色あせていない。「The Foggy Mountain Top」でヨーデルのような歌い方を聴かせたり、「Single Girl, Married Girl」でフェミニスト賛歌を歌ったり、「Worried Man Blues」でメイベルとハモったりと、どこを聴いてもカーター・ファミリーがカントリー・ミュージックに与えた多大な影響をうかがうことができる。必携の一品。(Jason Verlinde, Amazon.com)