文楽を見ている人のためのガイドブック
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満員の電車の中で読みだしたことを後悔した。「重の井子別れ」のところで目頭が熱くなり、「寺子屋」のところではほとんど泣き出しそうになった。この本を読んでいると、劇場の椅子に座ってみているかのように、義太夫の語りと舞台の人形が目の前に再現される。しかも、ありありと、その時の感動をもって。
その意味では、文楽をこれから見ようという人のための本ではなく、文楽を見ている人が、これからもっともっと楽しむにはどうやって見たらいいかを書いてある本だといえる。
それにしても、瞬間の芸術である舞台を、しかもその理想型で、これほど鮮やかに思い描かせる筆致。著者もまた文楽を見て感動しているのだろうと、「共犯者」の意識を共有できる。