フロリダ州でウェイトレスとして働き、名前ではなく「女の子」と呼ばれていたときには、月675ドルの家賃のトレーラー暮らしも、あこがれとなってしまっていた。清掃員と、養護施設での補助の仕事を掛け持ちすることになったメーン州では、仕事を得るために気が遠くなるほどのテストをやらされた。なかには「(麻薬で)少しハイになっているときの方がよく働く人もいるか」などといった、なんとも微妙な質問もあった。ミネソタ州のウォルマートでは、さぼり、窃盗、薬物乱用やその他の悪質な行為をチェックする高圧的な監視員の監視下で働いた。屈辱的な尿検査までさせられた。
低所得者は、中流階級の人々が知らない生き抜くための術を知っているのだろうか? はたしてエーレンライクは、福祉改革を推進したお偉い専門家が言うように、家庭から社会に出て働きたいと思う心理的効果を得ることができたのだろうか? とんでもない。教育を受け、健康状態も良好で、車を所有し、家賃の最初の1か月分を払える余力があるという好条件にあっても、彼女は2つの仕事を掛け持ちし、週に7日間働いた。それでもあやうくシェルター暮らしになるところだったのだ。著者がユーモアと激しい怒りを織り交ぜて指摘するように、需要と供給はひっくりかえっている。家賃は高騰する一方だが、賃金は決して上がらない。それどころか、あまりの低賃金に、できるだけ多くの仕事を掛け持ちすることを強いられる状況だ。ウォルマートのトレードマークであるベストの制服の背後には、ホームレスになるかならないかのボーダーラインが横たわる。
エーレンライクは、彼女独特の皮肉に富んだウィットと、持ち前の堂々とした偏見のない目で、影に隠されている低所得者にスポットを当てている。その過程で彼らが住む世界―― 市民の自由が往々にして無視され、必死で働く人々が貧困から抜け出すための切符を手に入れられない世界―― に光を当てている。(Lesley Reed, Amazon.com)