新装丁されるにあたり書き下ろされた蓬田やすひろさんの絵は、パステルトーンで描かれていて、現代の「浮世絵」とも言えるような柔らかさを持っている。
また、その絵は、平岩弓枝の描く「御宿かわせみ」の世界観を見事に体現しているのである。
江戸気質とも言える厚い人情を精髄としながらも、折々の風物を添えて描かれる作品は、この装丁のように温かみを持っている。
新装丁と改訂がされたのをきっかけに、書に手を伸ばしたが、ゆっくりとだが一通り読み通してみようと思った。
1話が約30頁ほどであるにも関わらず、起承転結がしっかりと区切られた構成は、著者の力量に負うところが大きく、そこからは安定感すら伺うことができる。
1巻は、春から始まり夏秋冬とめぐって次の春を迎える一歩手前、ちょうど年間を順繰りさせた期間が描かれている。
随所に織り込まれる折々の風物は、平素自然に従順して季節を愛た人々を生きいきと描き出しているばかりでなく、時間さえも緩やかに流れているよう感じられて、読んでいてうらやましくも感じられる。
代々木八幡神社の1人娘として育った著者は、未だ江戸情緒を残した粋な人たちと触れ合う機会が多く、それらを肌で感じ取っていたのかもしれない。
もちろん著作にあたっては周到な調べをしているだろうが、登場人物の人柄は著者の分身みたいなものだから、そうした育ちも作品に大いに影響しているのではないだろうか。