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聖灰の暗号〈上〉 (新潮文庫)

価格: ¥578
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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失われた歴史上の人々と現代を結んだ物語 ★★★★★
 魅力的なテーマである。私自身もカタリ派には興味があるので、歴史的な事実も面白かった。また、フランスが主な舞台となっているが、状況描写も精密だし、分かり易い。ミステリーであると同時に、文化と歴史を描いている作品である。
 カタリ派の殉教の場面は衝撃的である。歴史小説を書く作家の大切な仕事の1つは、失われた時を再現することかもしれない。特にカタリ派の処刑を目撃しながらも、教会に大きな疑問を持った人々の証言は、決して私たちには届かないはずのものなので、それを作家の想像力から再現してもらうことは、貴重な経験であろう。また、冒頭の詩は作者の創作によるものだが、良く出来ていると思う。
 ミステリーとしてはいくつかの疑問がある。カソリックの異端裁判や、異端者の処刑の詳細な記録が今現れたならば、確かに大きなイメージダウンになるかもしれない。しかし、そのために何人もの人を殺すような行為をするかどうか。異端審問そのものは良く知られた歴史的事実であるし、相当な記録が残っているからである。しかも、どのような記録であるかは殺人者にはわかっていないはずなのである。『ダビンチコード』の場合はキリストが結婚して子孫を残していたことを隠そうとする教会という設定である。これはキリスト教にとって大変な事実であるし、独身を原則とするカソリックの聖職者にとっては、プロテスタントよりも大きな打撃であろうから。
 例えば現在知られている新約聖書の資料よりも古いものが発見されて、それがカタリ派の教えに極めて近いというようなことがあれば別だが。
 また、細かい部分だが、学会での発表や質問の場面が、あまりに学問的でない。揚げ足をとるようになってしまうが、一遍とフランシスコの比較の部分などはかなり初歩的な議論である。また、ヨーロッパでの学会の最中に、発表内容とは直接関係のない部分で現代のカソリック批判をすることもあり得ないと思う。日本と比べたら宗教が生活に密着しているヨーロッパでの宗教批判はダブーだと思う。学者がこのようなことをするとは考えにくい。
 大きなテーマから見るとこのような細部はどうでも良いという人もいるだろうが、優れた作品になるためには、このような部分も精密に描くべきだと思う。とても好感の持てる作品であるからこそ少し残念である。
 また、この作品では宗教が大きなテーマとなっているので、キリスト教か、あるいはもっと広く宗教に関心を持っている人の方が興味の持てる作品だろう。
綿密な考証に基づく大作 ★★★★★
読了して最初に思ったことは「これを日本人の作家が書いたのか」という驚きだった。

ローマカトリックから異端とされ、弾圧されて消滅したカタリ派と異端審問を記録した架空の文書を題材に、宗教の暗部をあぶり出す本作。日本人がフランスの異端審問などについてこれだけ書くには、相当綿密な取材と史料を研究しての時代考証が必要になり、その労力は想像するだけでもすごい。

本作はカタリ派をめぐる歴史ミステリーの体裁をとりつつ、や異端を認めないローマカトリックの欺瞞や残酷さをまざまざと描き、人を救うはずの信仰が恐ろしい悲劇を生み出す現実を、日ごろ信仰とは無縁に近い日本人にも突きつけてくる。

帚木蓬生氏の小説に共通することだが、人間への視点がものすごくやさしい。主立った登場人物は誰も目の前に立ち現れてくるような気がするほど丁寧に描写され、ちょっとした登場人物にも人柄が分かるようなエピソードが入る。

カタリ派やキリスト教に興味がなくても、歴史ミステリとして楽しめるレベルの作品だが、これをきっかけに宗教や信仰について調べてみるのもいいな、と思っている。
こういう小説でも、違和感がない時代に。 ★★★★★
カタリ派のことは予備知識を持っていた。TBS「世界遺産」の番組で、フランスの世界遺産カルカソンヌをやったときに見た。
「何だテレビかよ」と言う声が聞こえてきそうだが、なんのなんの、なかなかいい番組だった。30分の放送時間のうち半分をカタリ派の歴史の紹介に費やし、最後はエンドロールの流れる中、ライトアップされたカルカソンヌの城壁をバックに、吟遊詩人にふんしたガイドがバイオリンを奏でながらカタリ派の悲劇を歌う、というシーンで、たちまち自分の中でカルカソンヌが一度は行ってみたい場所になった。
そう思ってると、この文庫が本屋に並んでいるのを見た。

感想は二つ。
まず、驚くほど違和感を感じない。
西洋史の秘史をモチーフにして日本人を主人公にすると、今までの小説にはどうにもとってつけたような違和感がぬぐえなかった。この小説には、そういう違和感を特に感じない。日本人が西洋史の謎に迫るというストーリー展開に無理がない。
これもグローバル化の時代の影響か。それとも作者の筆力を褒めるべきか。

もう一つ。
巻頭で、作者は30年前にカタリ派ゆかりの地を訪ねて、この小説を思い立ったと書いているが、何しに行ったのだろう。仕事ではあるまい。おそらくバックパッカーの個人旅行だったのでは。私もかつてヨーロッパを放浪旅行した経験があり、お仕着せの旅行ではない自分の興味をそそられた地を訪ね、感銘をうけ、さらにこの地を舞台に小説を書いてみたいなどど、楽しい空想にふけった経験がある。
・・・いまだに実現していない。だが帚木は実現した。そういう帚木へのジェラシーを抱きつつ小説のページをめくるのも読書の楽しみ・・・、なわけないか(笑
凄烈な物語 ★★★★★
帚木作品の素晴らしさは第一に、ストーリーの清々しさです。悪戯に殺人や裏切りで非現実感を煽ることがなく、悪人にさえどこか隣人愛を感じさせる暖かい視点がある。

本作品で暴かれる、ローマ教会の深い闇と「異端」とされ歴史に葬り去られたカタリ派殉教者達の清烈な生き方。

立派な教会などいらず、形式だけの洗礼もいらない。嘘をつかず、日々の仕事、眼前にあるすべての出来事が神との対話となる…。 家や職場こそが教会だというカタリ派の教えを邪教とし、全信者が根絶するまで拷問・処刑を繰り返す本家カトリック教会の存在意義とはなんだったのか。

同氏のアフリカシリーズが、そんな社会の歪みが現代でも健在することを示しているように思う。宗教権力は巨大企業・資本主義の偽善にとって変わり、虐げられる人々は貧困国や隣国の片隅で今も命掛けの祈りを呟いているのだろうか。

帚木作品を読んで得られる気付と内省は、私にとっての小さな信仰の場になっていると言えます。 心に残る一冊です。
カタリ派の話 ★★★★★
中世キリスト教の異端、カタリ派の秘密を日本の歴史学者がフランスで追いかける。

熱い本だったな。著者のカタリ派に寄せる思いが伝わってくるいい本だった。カタリ派好きの自分にとっては、すごく好きなテーマだし、ストーリーも分かりやすくて(ダヴィンチ・コードみたい?)、あっという間に読み終えてしまった。

カタリ派を描いた最近の小説には佐藤賢一の『オクシタニア』もあるが、あちらは、現代の話ではない。あれもいい小説だった。

それにしても自分がカタリ派に惹かれるのはどうしてだろう?高校生のころからそうだったんだよな。不思議。