ゴールドマン・サックス証券の名高い裁定取引部門に在籍したキャリア初期から、シティ・グループ役員を務める現在にいたるまで、ロバート・ルービンはアメリカ金融システムの中心に立つ重要人物であり続けている。また、米国史上最長に及んだ経済発展期の立役者でもある。ルービンは著書『In an Uncertain World』のなかで、近年アメリカで起きた重要な出来事を深い洞察力で鋭く分析しながら、市場を評価し、かつ世界経済の新たなリスクに対処するための、明確で一貫したアプローチ方法を提示している。
ルービンの根本哲学は、絶対確実なことなどない、というものだ。その確率論的思考が、ビジネス界でも政界でもルービンのキャリアを導いてきた。本書を読めば、ビル・クリントンやヒラリー・クリントン、朱鎔基・元中国首相、アラン・グリーンスパン、ローレンス・サマーズ、ニュート・ギングリッチ、サンフォード・ウェイル、そして最近ではダニエル・パトリック・モイニハンとの会談で、その哲学が実践されていることがわかる。アジア、ロシア、ブラジルの通貨危機や、連邦政府機能の一時停止、株式市場の上昇と下落、9.11以後の世界をめぐる問題、現在も続く財務政策の悪戦苦闘など、経済や政治上のさまざまな大事件に直面したルービンが、自らの哲学を幾度となく応用させていく姿を見てとることができる。
本書でルービンは、魅力的で率直な語り口と細部に対する鋭い観察眼とを駆使し、ホワイトハウスの日常――重要か平凡かを問わず数々の問題が降りかかる日常――を描き出す。その鋭敏さは、国家の行く手に横たわる問題を検証するときと少しも変わらない。政治的回顧録でもあり、規範的な経済分析でもあり、ビジネス問題についての個人的見解でもある『In an Uncertain World』は、30年にわたってワシントンとウォール街の中心に居続ける人物による、政界と経済界に対する奥深い考察の書だ。