Stokey and Lucasとともに手元に置くべき新しいバイブル
★★★★★
本書では最近経済学で重要性を増しつつある確率動的計画法とその数値解析手法を数学的な厳密性を損なうことなく解説した現在のところおそらく唯一のテキストである。
動的計画法に関する定評のあるテキストとしてStokey and Lucasがあり、今でもこの本は動的計画法の理論的基礎を学ぶのに最適な本だろう。しかし、この本が出版されて既に20年を経ていて、その後、広く用いられるようになっている数値計算の手法については一切触れられていない。
他方、近年確率動的計画法とその数値解析手法を解説した本が出版されているが(Ljungqvist and Sargentなど)、それらはその応用に主眼を置いたものであり、数学的な厳密性にはあまり関心が払われていない。その点、この本は数学的な厳密性を損なうことなく、数値解析手法の解説がなされている点が大きな特徴となっている。その意味で数学的な厳密性を損なうことなく数値解析的手法を学びたい大学院生にとってはStokey and Lucasを補完する現在のところ唯一のテキストだと思う。
また本書の説明はカジュアルで簡潔だが、その表現は的確なことが分かり、直感的な理解を助けてくれる。洋書は分厚く冗長な場合が多いが、この本は冗長なところが一切なく、その点も本書の特徴となっていると思う。
本書で用いられる言語がMATLAB等ではなく、Pythonである点は意見が分かれるかもしれない。ただMATLABのソースコードは本書のホームページから入手できるようになっているので、MATLABユーザーにとっても問題はないように思う。MATLABにこだわらなければ、PythonはGoogle社でも開発用公式言語となっているなど欧米で人気が高く、最近注目されている新しい言語の一つである。インターネット上から無料で手に入れることができるのでお金のない大学院生にはむしろこちらのほうがありがたいだろう。