ロックウェルを初めて知ったのは映画「ブロードキャスト・ニュース」の中で「帰郷」(本書47頁)という作品が使われていたことからです。その後92年2月に伊勢丹美術館で彼の作品の多くに接する機会を得ました。しかし当時の展示作品の選択が私に大きな誤解を与える結果になりました。展示作品に描かれているのは比較的恵まれた中流白人家庭ばかり。意図的に黒人を画面から排除しているかのような作品群を見て、「アメリカの心を描いた」というその美術展の謳い文句に鼻白んだことをよく覚えています。
しかしこの画集はそんな思い込みを正してくれます。ロックウェルには「The Problem We All Live With」というアメリカ公民権運動中の一事件を毅然と描いた作品があったのです。(本書87頁)
この64年の作品には白人専用とされた公立学校に黒人の少女が初登校する姿が描かれています。絵の背景にある壁には、保守層の白人たちが投げつけたトマトが当たって飛び散った跡が生々しく残っています。警備を担当する官吏たちが少女に同行しており、絵からは実に物々しい雰囲気が伝わってきます。しかし当の黒人少女は臆することなく、凛と胸を張って学校へ向かおうとしています。人種間の不平等を撃つ、まさに歴史的瞬間を独特の筆致で写し取ったこの作品は、深く重い感動を与えてくれます。
日本では私のようにロックウェルをアメリカの暖かい(白人)家庭をユーモアあふれる作風で描いたイラストレータとしてだけ捉えている人がまだ多いのではないでしょうか。彼がこのように社会に矢を射る作家でもあったことを知ることができる本書をより多くの人に知ってもらいたいものです。
それは人が生きているから感じる想いだと
心に伝える画集です。
ロックウェル自身についても解説が
あるので、初めて彼の本を手にする人にもおすすめです。