慶次郎、晃之助といった主役格が、登場するのがだいぶ後だったり、まったく脇のような描かれ方なので、毎回違う短編を読んでいるようだ。
共感を抱くようなキャラは少ない。毎回、人をうらやむ負け犬のような、「幸せ」を感じずに生きる人間が出てくる。
また、用意された結末も、「幸せ」を約束したものではない。どこかへつながるような、ここで終わってしまうような。
割り切れない思いを感じながらも読んでしまうのは、自分とシンクロするような話があるから。
「蝶」は、夫婦喧嘩したときの、心理状態ってこんなだったよな、と改めて思った一作。夫に虐げられ続けてきた妻の逆襲が始まるのだが、夫に押さえつけられ、まともに前を見て生きてこられなかった妻の心理、なんだかわかるのです。私の場合、押さえつけてたのは夫じゃなくて、かつての上司なのですが。
「峠」の他に短編六つ収められているが、どれを読んでも価値観や表現が現代的である。現代版時代劇と言ったかんじ。