読み終えて本を置いた瞬間、内容を忘れてしまった…… 。
★★★☆☆
川上弘美さんはちょっとスランプぎみ? あるいは作風を変えたのだろうか、と最近の、とくに長編では思わずにいられない。
市井の人々の日常を、人情味深くほのぼのと書きつないでいく腕はさすがだと感じたものの、あまりにもさらさらしすぎていて、深みというか、川上さん本来の引っかかり、こだわりみたいなものが見えてこない。谷内六郎さんのカバーは雰囲気にぴったりだと思うが、本の中だけで繰り広げられる異世界に、今回も出会うことはできず、とても残念……。
俯瞰された世界。
★★★☆☆
川上氏の本作品は輪郭がぼんやりしていて、ガラス玉のように脆く、儚く、一旦風船のように膨らんだ物語は徐々に収縮していってそろそろと、終わる、そんな感じ。
短編はどれも、家族や、親族、ご近所など、近しい間柄を描いたモノ、11作品。
家庭内別居をする両親を見つめる少女。姑の位置づけに戸惑う嫁。自分の生きる道を見失った男。
ココロの中の闇の部分、他人との距離感とか。
登場する人物間の関係は近いんだけど、実際は遠かったりするのだ。
小説の世界を俯瞰しながら描くという彼女のスタイルがよく現れた作品だと思いました。何度も読み理解を深めたい一冊です。
“あぁ、もう”という感じ
★★★★☆
作品の中に“あぁ、もう”というセリフがある。
この本は、まさしく、“あぁ、もう”という感じの1冊だな、
そう思います。
全11篇の短編を通して、こう、読んでいる最中に、
ドキドキ・ワクワクや、うんうん そうそう や、何と言うか
即効性は正直ない、と思う。
けれど、全体を読み終わって後からジワジワっとくる
そういう作品かなぁ。
本文の中で、
『生きていても、だんだん死んでゆく。
(中略)・・・いつまでも死なない。』という2行があります。
その言葉の為に全部が必要なのかな、と思いました。
この言葉は非常に深く、年に1回読み直して、何度も何度も
繰り返して読む、そういう価値のある1冊、そんな感じです。
川上さんの作品、やっぱりワタシは好き だな^^。
口に出す言葉の裏の、形にならない気持ち
★★★★☆
川上弘美の本を読んでいると、いつも、なんとも言えない感情を得る。
こうした「レビュー」のような、彼女の文章を規定した事を書くこと自体、彼女の本には似つかわしくないような。
彼女の小説で主体となる語り手の多くは、口下手な人が多い。
胸の中でぐるぐるとする、沢山の相反する気持ちを、何とかまとめてようやく、短い言葉にして、伝える。
その言葉は、相手にちゃんと届いたり、一部だけ届いたり、まったく届かなかったり、曲解されたりするけれど、それを語り手は、そのままにする事も多い。
そんな情景を読んでいると、新聞や、TVや、映画などのメディアは、「分かりやすい」事を中心に世界が出来上がっているような錯覚を与える事で成り立っているように思ってしまう。
また、「口下手であり、説明できないけど、何かの意味のある行動」を描写するのも彼女の表現の特徴だ。
問題のない夫と離婚する理由が「一緒にいると眠れない」という事をどう表現していいのか分からない女性。
死んだ妻の愛人と「淋しいから」と言って一緒に暮らす男。
父の浮気などで人の愛情に対し不信感を感じていながら、一緒に暮らし始めた男と離れられない女性。
双方の理由で付き合ったり別れたりを繰り返しながら、年上の女性と一緒に店を営む男。
そんな、沢山の「言葉に出来ない気持ち」を持った人々が、袖すりあいながら生きている町。
言葉にならない思いを、言葉で表現する川上弘美が、私は、いつも、とても好きだ。
そして、読んだ後、いつも、自分の中の、人の中の「言葉に出来ない気持ち」にそっと思いを馳せるのだ。
傑出した群像劇
★★★★☆
そこで暮らす人々の息づかいが聞こえて来そうな、どこにでもあるようで、どこでもない住宅街の中の町の風景。
大きな事件があるわけでもないのだが、ひとりひとりの人生は、やはりとても「ドラマ」だ。
さらさらと少しずつ重なっていく群像劇がじんわりと心に染み入ってくる。
決して激情ではない日常の中のあらゆる感情のひだが、漂うように全体を包み込んでいる、傑作。