男女の脳の違いを建設的に認識する良書
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一般的に男性、女性は考え方、行動に違いがあったり、身体機能面、寿命でも違いがある。
脳機能でも違いはあるとは思うが、どんな点かざっくり言い表せなかった。男性、女性のどちらが優秀か、劣っているか、生まれつきどうかなど差別するのでなく違いは違いとして認め、同じ人間として協力しあるスタイルが望ましいと思う。
本書は医学者が表した一般向けの教養書であり、脳の進化の歴史、それに続く男女の脳の違いを科学的に説明、実際の実験、研究の紹介や様々な説の紹介との比較もあり楽しく読めた。
第1章の「地球の今を作った現代人の脳」では、「ヒトは大人のチンパンジーより幼いチンパンジーに、より似ている」という箇所がある。ヒトの寿命の長さや知能の働きとの関連もあり、若さを保持する仮説も面白かった。
また第3章「知性をつくる新脳」では「ヒトもチンパンジーも女の子の方が優等生」という世俗的な項目があったが、ヒト、チンパンジーのこどもの観察の紹介があげられ、興味深く面白かった。雌チンパンジーは母親の動作の模倣時間が雄チンパンジーより多かったようだ。ヒトの子どもでも男の子より女の子の方が言語能力が勝る傾向が出るのは、5、6歳であるとのことだ。また「軟らかい餌で頭がよくなった雌ラット」という実験結果の紹介も興味深い。
著者の視点は客観的であり、拡大解釈が披露されていない点が読みやすかった。また性ホルモンと脳の機能系との関係も第4章で語られ、摂食の促進、抑制との関連、女性の性周期における言語機能の変化の記述も興味深かった。
また著者は性差における疾患にも少し触れられている。病院勤務をしていると性差の疾患を肌で感じることもあり、この点についての今後の更なる研究、知見も気になる。男女の違い、本書では脳であるが、建設的に認識していくことの重要性にも理解が深まった。