男女の生得的な差
★★★☆☆
本書は、映画『ボラット』で有名なサーシャ・バロン・コーエンのいとこであるサイモン・バロン・コーエン氏による、男女の心のあり方の差に関する本。
バロン・コーエン氏は、「自閉症は極端な男性型脳(extreme male brain)」説でも有名なケンブリッジの教授である。
学術的立場から書かれた本書は、わかり合えない男女を描いた恋愛本ではないが、専門書ではないので難解さやカタさはなく、短時間で気軽に読める。
男性の脳にはシステム化傾向(こうすればこうなる、という法則を見出す)が強く、他人の感情に対する配慮や共感は低めで、
一方女性の脳には他人の気持ちを我が事のように感じ、相手の気持ちを考える共感度が高く、システム化傾向は弱いという著者の説を、
さまざまな実験結果から論証していく。論を進めるにあたっては、男の子・女の子らしく育てるといったような社会の影響は意外とないものと考え、
非常に幼い頃から男女差があらわれること、胎児期に浴びるホルモンが影響を及ぼすこと、また進化の上で得なようにそれぞれ発達したらしいことを論拠に、
男女の脳には、平均値で比較するならばむしろ先天的に差異が認められることを強調する。最後の方には、
極端な男性型脳として自閉症およびアスペルガー症候群について詳しく紹介されており興味深い。
もちろん、これは実験結果の統計の平均値を比較した場合の傾向であって、男性は皆こうだ、女性は皆こうだということではない。
その点は、筆者自身が最初に強調している。男女の脳は違うというと、男女に優劣があると主張しているようにも見えるが、
バロン・コーエン氏はあらゆる差別に反対し、男女の差などなければいいのにと思う程であり、自分もパソコンについては女性に助けてもらっているという。
著者の立場は、むしろ男女差を認め、それぞれの得意分野を生かせるようにしていけばよいということである。
ただし、援用されている実験については、その調査サンプル数などの詳細は詳らかでない。(引用された文献にまであたらないとわからない)。
また、男女が社会的に受ける影響について、排除しすぎているきらいがある。また、複数の国で実験結果が同じだったからといって、
出た結果の原因が文化の影響ではないと結論づけるのも安易である(性別役割分担などは、各国で重なる部分がある)。
巻末には、共感およびシステム化傾向の指数、自閉症度をはかる質問表がついている。
性差をスペクトルとして捉える
★★★★★
女性に多いとされる「共感」型は、「心の理論」そのもので、前著の「自閉症とマインド・ブラインドネス」に詳しい記述があります。(参考までに)哲学者ダニエル・デネットの言う「志向姿勢」に相当すると思います。
本書では、新たに「システム化」なる概念が、男性に多いタイプとして登場します。要するに物事を因果的にとらえようとする傾向で、観察から帰納的に規則を見出そうとする傾向で、規則に従ってシステムを構築しようとする傾向のことらしいですが、どうにも意味が広すぎてつかみどころがない印象を受けました。こちらはデネットの言う「物理姿勢」と「デザイン姿勢」をあわせたものに近いようです。
議論は共感型の女性脳、システム型の男性脳、そして極端な男性型としての自閉症患者と進みますが、著者は慎重さを見せつつもこれら全てを単一属性のスペクトルとして捉えようとしているようです。そして、ここから極端な女性型の人が存在するはずだという予測へともっていきます。そのような人の候補として、自分はテレパシーが使えると思っている人々というのが挙げられています。私見ですが最近テレビに出ている動物と話せるとかいうおばさん。新手のペテン師だと思っていましたが、案外こういう類の人なのかもしれないなと思いました。もし彼女のシステム化能力が著しく低ければ、この突飛な説もそれなりに信憑性を帯びてくるかもしれないですね。以上、多少強引なところもありますが、全体としては非常に面白い本だと思います。前著の「自閉症とマインド・ブラインドネス」はやや専門的ですが、こちらもオススメです。
さて、内容の素晴らしさもさることながら、特筆すべきは訳者のレベルの高さと出版社の姿勢です。訳は日本語として完璧でかつ非常に読みやすい。そのうえ、日本人の専門家若林明雄氏による解説もついていて、参考文献リストもきっちり備えており、入門書としての体裁も整えている。これでこの価格に抑えられるとはまさに出版社の鑑だと思います。
男女の心の違いについて
★★★★☆
男女の脳・心の働きはどう違うのかについて。生物学的要因・社会的要因や進化の中での優位性など、
身近な事例と学術的研究から解き明かしていく。まったく耳に新しいというわけでもないけど、
まあ今まで言われてきたことを角度や視点を変えて考察したような。
女の話にはオチがない、男はすぐに虚勢を張りたがる、女は地図が読めない、男はしょうもないものをコレクションしたがる・・・etc..
一般に誰もが感じていることは、そう間違ってないってことです。
もちろん個々人を見れば別で、統計上の傾向の話だが・・・。
読後、なんとなく田嶋陽子さんの顔が浮かんだ(笑)
フェミとかジェンダーフリー論者とか急進的な男女平等論者に真っ向から反対する気はないが、
残念ながら男と女は生物学的に明らかに違い、それは肉体のみでなく脳・心の働きも違うということ
を踏まえた上で議論しないといけないよね。
社会や文化の変遷のほうが人間の生物学的進化より早くなってしまうのは仕方ないとは思うが、
男と女は違うということを受け入れた上でバランスよくゆっくりと変革していかないと。
新しいアプローチ
★★★★☆
この本はまじめで,面白さは少ないです。でも我慢して読んでいるとだんだん興味深くなって来ますし,話題も広がりをもちます。
天才は昔から男ばかりだといわれます。実は埋もれてしまった女性もいるようで,実際はもっといるようですが,この本の分析で,
その理由も納得することになるでしょう。はっきり書いてはありませんが。
ただし,日本人には,ずれが多いと思いますし,巻末のテストも先にやってしまったほうが,客観的になれるし,面白く読めると思います。
それなりに知識は深まるけれど……
★★★☆☆
端的にいえば脳には他者の心情を読み取りそれに対して適切な反応を取るのに秀でたタイプ(=共感型)と物事の因果関係や仕組みを見出したり秩序付けたりすることに秀でたタイプ(=システム型)とがあり、前者は女性に多く後者は男性に多い、という内容です(女性はすべからく共感脳、男性はすべからくシステム脳というわけではありません)。もちろん両方の特性を備えた脳もあるわけですが、統計的にはそうなるよ、っていう話です。言いっぱなしではなくてきちんと実証的な証拠を挙げているのですが。
いや確かにそれなりにしっかりした学術的な内容だとは思うのですが、正直読みものとしてはあまり面白くないかな……、と。同じ著者の『自閉症とマインド・ブラインドネス』がとてもよかっただけにそれと比較して見劣りするのは否めないかな……。でもまあ買って損するものではありません。