女が女を女たらしめる。
★★★★★
タイトルから、川端康成のどんな女性観が垣間見れるのかとドキドキしたが、初っ端からやられました。
P32『春のはじめの女の朝寝は、とろけるように甘くて、幸福が来そうに思える。』つづいて『まだ夫は、妻の肌から冬が去ったことを、知らないで過ごしている。』
どうしてこのように女性を描けるのか毎度毎度感嘆させられてしまう。これだけでこの女性観に引きずり込まれてしまう。そして本作では、3人の女性を中心として、「女であること」をみごとな筆致で表現し、展開してゆく。
P563『東京駅のホテルから、さかえをうちへつれて帰った夜の、あやしいよろこび、さかえにせっぷんされた夜の、あやしいおののき、女が女に愛されてか、愛してか、さかえの若さの波に、市子はゆらめいた』
「女」という存在は幻惑的な美を外に現す過程で、かくも悩み苦しみ、女が女を互いに意識しあうため、女の体すべてで自らの現状を取り囲む世界を敏感に感じているのだと気づかされる。それは、男ではなく、女が女を狂おしく胸詰まるほど愛おしくしてしまうからだろう。だからこそ、男は自らと違う性からしか醸し出されない「女であること」の美に魅惑されていってしまうのだ。
580ページ近いボリュームであるが、男女共にお勧めしたい。本書でも、川端康成の美しい文体はそのまま女性の美しさにつながっていることを実感できるはずだ。そして、ぜひこの日本語をじっくり味わって欲しい。