インターネットデパート - 取扱い商品数1000万点以上の通販サイト。送料無料商品も多数あります。

霧の旗 (新潮文庫)

価格: ¥580
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
Amazon.co.jpで確認
柳田桐子の異常性は日常に潜む怨恨の怖さを際立たせる。 ★★★★☆
前半は、柳田正夫が犯人とされた事件の解明に費やされ、大塚欽三弁護士の面目躍如が描かれる。中盤では、突然桐子が九州から銀座のとあるバーで働くことになって、そこで雑誌記者の阿部と再開する。また、とあるバーのマダムの弟が大塚弁護士の愛人が経営するレストランで働いている設定などが巧みに配される。これら清張一流の偶然の配置は、ストーリが面白いゆえ、読者の関心は偶然性の批判には向かない。さて、後半では、同じバーの同僚にちょっとした頼まれごとをされた桐子が、大塚弁護士を貶める願ってもないチャンスを得ることになる。

桐子のたくらむ筋書きが、背筋がぞっとするほどに極端なものであることは、最後に明らかにされるが、私は、この作品の主眼は、正にこの異常性にあるのであって、法と裁判制度に対する問いかけといったものはサブテーマにすぎないと考える。
大塚が河野径子の冤罪をはらそうと躍起になればなるほど、桐子は大塚に憎悪を募らせる。兄が死んでしまった以上、どこまで行っても生きている大塚を抹殺するしかない。この感情は最初からもっていたものではなく徐々に増幅していったのではないか。
「でも、掌の暖かい方は、心は冷たいというわね」
「でも、そのためにいろいろと犠牲者が出るわ。ご自分ばかりでなしに。・・・」
「・・・普通に生きることさえできないで、短く終った人もいるんですから」
桐子の大塚の会話はどんどんエスカレートしてゆくのである。

恨みを買うというが、それが相手方の思い込みであった場合、自分でコントロールすることは不可能である。異常な感情が、径子と大塚の二つの冤罪を闇に葬った。これほど怖い凶器は、人間社会において存在しないのである。
色々な意味での不条理 ★★★★☆
松本清張の作品は確かに面白いが…いつも余り読後感が良いとは言えない。
社会は常に不平等であり、人の善悪も100パーセントではないからだ。勿論現実における勧善懲悪などもない。
この作品でも正直、大塚弁護士が桐子にここまで恨まれる筋合いはない。弁護士にも仕事を選ぶ権利がある。桐子の恨みは所謂逆恨みでしかない。
この作品は冤罪の恐ろしさと共に、普通に生きていても、いつどこでどんな恨みをかうかも知れない怖さを考えさせられる。
作者の作品には常に社会の不平等感や不条理が多く描かれているが、それでも人は真摯に生きてゆくしかないのだと私は思う。作者の作品に余り救いがなく、読後感がスッキリしないのは、登場人物たちがどちらかというと次第に闇に染まってゆく姿が多く描かれてゆく部分にあるのだろう。
娯楽小説とシリアスな社会派小説の見事な合体 ★★★★☆
 柳田桐子は死刑判決を受けた兄の無罪を信じて、高名な弁護士大塚に弁護を懇願するが、高額の弁護料を払えない彼女は全く取り合ってもらえなかった。兄は殺人犯の汚名を来たまま獄中で死に、桐子は大塚への復讐を始める。それは極めて周到な準備の元に実行されていく。
 実は大塚弁護士は決して非情でもないし、現代の司法制度の中では良心的な方だと言っても良いのである。
 むしろ桐子の執念が恐ろしくなり、異常なものに見え、桐子が一種のストーカーのように思える。
 しかし良く考えてみると、桐子から見れば、もし大塚弁護士が弁護していたら、兄が助かっていた可能性は極めて高いのである。だから、復讐は極めて正当なのだ。
 では一体誰が悪いのかという問題が出て来る。そこで松本清張のテーマである社会の矛盾が出て来る。
 日本では多くの文芸作家にとって社会の矛盾は大きなテーマになり得なかった。いろんな理由があるだろうが、彼らが社会の下層の生活と無縁だったことも大きな要素であると思う。貧しいが故にかなえられない願い、助からない命。それを実体験として知っているという点で松本清張は数少ない文芸作家と言えるだろう。
 桐子の恨みは大塚個人へと向けられているが、松本清張の中にははっきりと社会の不平等への怒りがあると思う。
 しかし松本清張の作品らしく、精密な状況描写があり、真犯人を求めるときの証拠の分析などは彼の能力が最大限に活かされている。読者を楽しませる娯楽小説とシリアスな社会派小説の見事な合体である。
これが本物の復讐だ!! ★★★★★
かくも恐ろしい歳若い女性の復讐劇である。
法曹界に君臨する賢いと思われている男たちを、
これでもかと思うくらいじわじわと追い詰めてゆく。

この女性を演じるとなれば誰がよいだろうかなどと考えながら、
清張作品に登場する女性像の妙に感動するばかりだ。

ミステリの新境地を開拓した本書に影響された作家も多いはず。

本書は清張作品の中でも一二を争う秀逸な出来で、
ストーリー展開や心理描写、
また供述書や鑑識発表を冷静に読み解いてゆく痛快さもある。

ぜひ一読しなければならない作品だ。
復讐の黒い矢を放つ柳田桐子という女が忘れられない ★★★★☆
 弁護を断られたために、無実の罪を負って兄が獄死したと信じる女が、弁護の依頼を断った高名な弁護士に復讐するサスペンス小説。
 情に流されず、毅然として復讐していく柳田桐子(きりこ)の姿が、鮮やかに瞼に焼きつきました。暗い影を帯びた魅力的な女性が登場する作者の小説のなかでも、柳田桐子は、強い印象を残す女性ですね。芯の強い性格。きっぱりとした物言い。兄の無念を晴らす復讐の女を描いた清張の人物造型力が見事。
 後味は決してよくありませんが、ラスト一行の切れ味のよさには唸りました。
 1959年(昭和34年)から1960年にかけて、『婦人公論』誌に連載された作品。脂の乗り切った当時の清張作品では、『黒い画集』『影の地帯』『砂の器』といった小説、『日本の黒い霧』のノンフィクションとともに忘れられません。