しかし蒔岡家との家柄の違いから、最後までその関係は認められず、妙子の命の恩人であるにもかかわらず蒔岡家の人々は彼の存在を厄介なものとしてしか見ない。そして板倉がたどる運命。
板倉は一体何を象徴しているのであろうか。
「家柄」というものの持つ意味の大きさよりも、やはりそこには手の届かぬ女性への憧憬、いくらあがいても手に入れることのできない、女性に対する男のはかなさが象徴されているのではないか。
「細雪」にもやはり、谷崎潤一郎特有の「美㡊??や「女」というものへの彼の思いが一貫して流れている。この作品におけるそれは終始穏やかであるが、この板倉の一件だけはその流れが違った流れ方をしているように思う。
板倉のことを考えると、なんとも言えない切なさを感じる。
(女中のお春の独り言の癖や、彼女に関するその他のエピソードには何だか微笑みがもれます。でも、女中となったいきさつは何だか切なくもあります)