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新ハムレット (新潮文庫)

価格: ¥578
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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とんちんかんなことを書きます ★★★★★
 「夢のような事ばかり言っています」、「夢のようです」、といった言い回しが繰り返されたり、先王の幽霊の噂が流れていたりと、霧の中での出来事を思わせる、表題作「新ハムレット」。

あの人たちの事は、あの人たちに任せるより他は無いよ。
死者の事は、厳粛にそっとして置いてやってくれ。
親子の事は、親子に任せるのがいいのです。

 といった言い回しは私に、福音書にある――と私が記憶している――言葉、死者のことは死者に任せよ、だとか、カイザルのものはカイザルに、といった言葉を連想させる。そして、太宰さんのほかの言葉、「汽車の行方は、志士にまかせよ」(「鴎」)も。
 それぞれの専門家だとか、当事者だとかにお任せしていればいい。門外漢がとやかく口出しするのは、余計なお世話、おせっかいというものだ。太宰さんに、そう戒められているようだ。そこまで考えると、こんな聖句も思い浮かぶ。――
 偽善者! 自分の目のなかに梁木があるのに、他人の目のなかにある塵をとろうとするな。まずは、自分の目のなかの梁木をとり除け。そのうえで、余裕があったら、他人の目から塵をとってあげなさい。

 ハムレット、ホレーショー、ポローニヤスの三人は、どこか、「走れメロス」のメロス、セリヌンティウス、王の三人を連想させなくもない。

 こじつけでしかないかもしれないが、なんだか、そんなことを考えた。
太宰苦手組だけど:技巧派ぶりが分かる一冊 ★★★★☆
 僕は、太宰の饒舌な謙遜や自己否定の裏に見える強烈な自意識が苦手な読者です。(根底に強烈な優越意識や自己愛があるので「堕ちていく」ということが可能になる。)ただ、彼の書き手としての才能は僕は認めています。(一番好きな太宰作品は自我意識から比較的自由な「富嶽百景」。)

 本書は比較的安定期とされる中期の作品群だが、表題作の他、「古典風」「女の決闘」など、他人の作品やローマ帝国史をネタに「小説を書く」という行為自体を作品中に書き込んだメタ作品が並んでいて興味深く読めました。勿論、どの小説にも作家が語り手として(=「女の決闘」)、または登場人物として(=「古典風」「新ハムレット」)、内面をいつものように吐露しています(笑)。が、自分をモデルにした他作品よりは「濃度」が薄いので太宰アレルギーの読み手でも比較的読みやすいでしょう。

 なお、他のレビュアーにも大人気の「待つ」はべケット「ゴドーを待ちながら」より10年早く停車場での不条理文学を描いたものです。これは結構凄いことではないでしょうか。また、表題作(=本家作品とは筋が異なる)のラストで、叔父の王に「(デンマークと)戦え!」と強要されるシーンでハムレットが呟く台詞は、そのまんま大戦期だった時局に対して作家が呟いた言葉なのでしょう。戦中にこういう反戦(厭戦)作品を発表したということは、実は彼がいかに肝が座った人間だったかを表してると思います。(彼と青春時代を親しく共にした森敦の「わが青春わが放浪」によると、太宰は手が大きくて腕っぷしも強かったらしい。あと、放蕩児のようで、書かなきゃならない時は常にきちんと机に向かったそうです。なんかイメージに反するエピソードですよね。)

 いやはや、大した作家ですね。
ダメンズ太宰のもうひとつの顔 ★★★★★
太宰治は、無から有を産み出すタイプの作家ではありません。
彼の創作には、想像力を刺激する、何らかの具体的な素材が必要です。
その素材となり得るものは、世界文学の名作。愛人の日記。果ては自身の実人生での体験まで、ありとあらゆるもの。
それら、創造の叩き台となるものを、彼一流の批評眼でするどく分析して、手を加えるべきポイントを定めると、あとは才能の赴くままにペンを走らせる。
そういう創作術だと私は想像しています。

そんな太宰の創作過程が手に取るように分かる異色の一篇が実は存在します。
それが他ならぬこの文庫に収録されている「女の決闘」

「女の決闘」は、この作品の冒頭で太宰自身が解説している通り、森鴎外の同名の翻訳短編小説が素材になっています。
鴎外版「女の決闘」の、かなり長い部分を引用しながら、太宰は、この小説についての分析を始めます。(これが大変面白い)
やがて彼は、この小説には何か居心地の悪いところがあると指摘し、この作品をもっと「すわり」のいいものにするため、自分が手を加えて書き直してみようと言いだします。
そして、本当に、手なおしを始めるのです。
嬉々として。自信たっぷりに。

自信。そう、本当に自信たっぷりなのです。
口では、自分のような拙い作家がこんな名作に手を加えて申し訳ない。すみませんすみません。と、彼独特のしおらしさで、原作者に謝っていますが、
そんな謝意が口先だけのものであることは、何の迷いもためらいもなく、弱い獣をむさぼり食らうように原作を改変していく容赦のない筆さばきを見れば一目瞭然。
簡潔で力強い鴎外の文体はたちまち姿を消して、太宰ファンにはなじみの、独特のねっとりした文体が現れ、それはやがて、どこからみても太宰作品としか思えない、一篇の作品を紡ぎあげます。

鴎外版「女の決闘」も文句なしの秀作ですから、太宰の筆による改変と、作品としてどちらがより優れているか、ここで評価するのは難しいのですが、
ただ、自分が手直しした方が良くなるんだとばかりに、原作を読者の前で堂々と書き換えていく太宰の、どこか無神経とも言えるふるまいに、私は、世間で流通している気弱なダメンズとしてのイメージとはかけ離れた、太宰のもう一つの顔。
自らの才能を誇る、思いあがった天才作家の顔を、はっきりと見るのです。

自分がどれほどの創作技術を持っているか人に見せつけたい。
この、因果とも言える欲望を、太宰ほど強く持っている作家は、ひょっとしたら稀なのかもしれません。
何かと言えば自分はダメな男だと言い、自分を気弱ではかなげなものに見せようとする太宰ですが、現実には、作家としての太宰は、大変な自信家です。
自分ほどの才能は創作のためならどんなことをしたって許される。
とまで考えているのではないかと言うフシが、身近な人たちによって語り伝えられている種々のエピソードの中にも見受けられます。

私はダメな人間ですという、太宰の涙まじりのつぶやきにごまかされてはいけません。
自分の知性と才能に絶対的と言える自信を持った、思いあがった天才作家の顔。
それを思い浮かべながら、この文庫に収録されている「新ハムレット」を読めば、また違った趣があると思います。
「シェークスピア先生。ここはこうした方がいいですぜ」
そう言ってにやけ笑いをする、太宰の勝ち誇った声が聴こえてはきませんか。
待つ ★★★★★
表題作、新ハムレットよりこの本に収録されている「待つ」がとても素晴らしい。
たった3ページ弱の話でここまでの作品ができるとは……
一読の価値有です。
良作揃い ★★★★★
学校以外で太宰作品に接したのはこの本が始めてなんですが、かなりイメージとは違った作品でした。
太宰治というと、薄学な僕には自殺した作家で薄暗いイメージしかなかったのですが、少なくともこの一冊にはそうした薄暗い印象は受けませんでした。

「新ハムレット」は現代風に、戯曲の形を採りつつ原作よりも軽いタッチで描かれており、非常に読みやすいです。

僕が一番気に入った作品は「乞食学生」です。
その場凌ぎで中途半端な作品を出し続け、何とか作家をしている人生に疲れている主人公が、一人の青年と出会い、内に秘められた青年時代のまっすぐな情熱を確認する・・・
どの時代のどの大人にもこういう感情はどこかしらあるんだろうな・・・と感じさせられる作品でした。