ヘルツォークは、原初的なエネルギーが持つ、“強烈な生命力”に魅入られた映画監督だ。否現代人を誇称する彼にとって、その“生命力”とは実は、荒れ果てた砂漠、荒れ狂う火山、人跡未踏の密林など無生物にもあてはめられる。だからこそ、『アギーレ　神の怒り』や『フィツカラルド』ではアマゾン奥地のジャングルを取り上げたし、この『コブラ・ヴェルデ』では、アフリカという未開の地を背景に、山賊から奴隷商人はては共和国総督にまでのぼりつめるアンチヒーローを描いてみせているのである。
   彼が愛し、そしてわれわれ観客をあ然とさせるのは、そこに実際に住んでいる人々を出演させてしまうことからにじみ出るなんともいえない“なまの人間”の力強さと、善も悪も理屈も不条理もごたまぜとなった文明から無縁の自然、“神の手の入らぬ土地”の怖ろしいような美しさだ。もちろん、キンスキーのハイテンション演技も健在。（岡野宏文）